出版社内容情報
医者になるのに失敗し、詩人になりそこね、良き父となる機会を失い、42歳で破滅的な生涯を終えたインドネシア人作家の代表作。
哲学とドタバタ、不条理とトラウマ、疎外とセンチメンタルを、あふれだす言葉で明るく物語る。分裂した主人公と錯乱した世界の行き着く果てはいかに・・・。
リアリズムを超越した文学!
内容説明
本作品もイワンの他作品と同様、個としての人間の持つトラウマ、疎外、生の不条理を様々な反フォーマル・リアリズム的手法で描くという特徴を持っている。先に述べたように、登場人物には名前がなく、さらに地名もなく、日時も特定できない。物語の舞台がインドネシアであるとも書いていない。著者の意図は、抽象性の中で物語を展開することにあった。この抽象的物語世界の中で官僚制度やインテリが批判され、言語、認識、性、結婚、信仰が語られ、放浪や移住が論じられる。これらのテーマに対する扱い方は、イワンの他の作品と共通するところが多い。また、イワンの小説に共通する特質として、(ブラック・ユーモアも含め)ユーモアの要素があげられるが、本作品では、そのユーモア性が最も顕著である。ただ、本書が他の作品と決定的に異なっているのは、その結末である。主人公は最終的には社会へのコミットメントを選択する。加えて、他者への呼びかけで終わるというこの結末は開かれており、作品にある種の明るさを与えている。
著者等紹介
イワン・シマトゥパン[Iwan Simatupang]
1928年スマトラ島シボルガ生まれ。医者になるのに失敗し、詩人になりそこね、良き夫となる機会を失い、42歳で破滅的な生涯を終えたが、インドネシア文学史上に残る小説を書いた男。才能と自負を武器に、リアリズムの横面を張り倒し、文体と構成力で文学革新の第一走者となった。この小説は、哲学とドタバタ、不条理とトラウマ、疎外とセンチメントをあふれ出す言葉で明るく物語る。分裂した主人公と錯乱した世界を統合しようとするイワンの力技、ご覧あれ
柏村彰夫[カシムラアキオ]
1956年大阪市生まれ。大阪外国語大学大学院修了。現在、京都外国語専門学校講師。著書に『インドネシアのポピュラー・カルチャー』(共著、めこん、1995年)
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