内容説明
紀元79年、ネアポリス。“ご主人様”の命により、道化は「人生」を与えられた。奔放な巫女、双頭の修道士…ナポリを舞台に、道化は数奇な転生を繰り返していく―。現代イタリア・ナポリ。演劇一門の貴公子・ルカと大道芸で日銭を稼ぐ少年・ジェンナーロは、舞台「最後のプルチネッラ」の稽古を通じてナポリを象徴する道化“プルチネッラ”の謎に迫る。二つの物語が時空を超えて重なる時…。貧しく豊かな劇場の町・ナポリのすべてを抱擁する即興仮面喜劇、開幕。
著者等紹介
小島てるみ[オジマテルミ]
宮城県生まれ。専修大学文学部英米文学科卒。イタリア、スペイン、ラテンアメリカに語学留学。女装者、役者、コンテンポラリー・アーティストなど、境界をとかし世界と深く交感する人々に取材、ネイティブの協力を得てイタリア語で「からだ」をテーマに小説を書く。「最後のプルチネッラ」にて、第一回ランダムハウス講談社新人賞優秀賞受賞作「ヘルマフロディテの体温」(ランダムハウス講談社)と同時デビューを飾る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
藤月はな(灯れ松明の火)
34
天衣無縫な精はご主人様を笑わせることができなかった。そしてご主人様を笑わせるために彼は記憶を持って転生し続けることになる。そして2人の「最後のプルチネッラ」を目指す少年が出逢った時、一つの凝縮された人生の幕が上がった。貧しいながら明るくても自分の悪魔を殺して自我を保っていたジェンナーロ、「自分は自分」と言い切り、無生物の模倣が得意なルカが仮面を抱きしめ、助けを求める場面は胸がきゅっと痛くなります。不安で哀しくて孤独に打ちひしがれそうになってもなぜ、人を笑わせられるのか?それでも生きているのは無限なのである2013/06/04
ごはん
33
それまでの記憶を残したまま転生を繰り返す道化と、最後のプルチネッラの称号を手にしたいふたりの少年の物語。遠く離れた時を経て、それはやがて交わっていく。輪廻転生。終りがきて、また始まる。繰り返される生と、一度きりの命。役者は舞台の上で、いくつのも人生を演じる。たった一度きりの限られた生の時間を、自分ならどうやって生きるのか、或いはどう生きたいのか。顔を仮面で覆い、真の表情はみせずに観衆を笑わせる道化。笑うことと生きること。笑いながら生きていく。一度しかない人生なら、たくさん笑っていたいと私は思う。2009/07/25
リードシクティス
20
劇場の街・ナポリを舞台に、舞台〈最後のプルチネッラ〉の主役の座をを競い合う二人の少年たちと、遥か古代から転生を繰り返す〈道化〉の2つの物語が交錯する―。何も知らない無垢な〈道化〉が、記憶を保ったまま転生を繰り返し、さまざまな人生を演じることで人間を知っていく。どんなに辛いときや過酷な時代でも「生きて笑うこと」をを選び続けたナポリの人々と触れ合い、その体験は現代のナポリで最高の喜劇として結実し、そしてその魂はこの先もナポリの街に生き続ける。物語、構成ともに優れた人生賛歌的作品だった。2021/07/14
九鳥
16
図書館本。「ヘルマフロディテ」が面白かったので2作目に手を出してみたが、こちらの方が好きかもしれない。特に、劇中劇として語られるナポリの歴史とともに転生を繰り返す「神の道化」の物語がとてもとてもよかった。イタリアの物語なのに、仏教的な死生観のように思う。2009/01/08
merry
14
プルチネッラを目指す二人の少年と、輪廻転生を繰り返すプルチネッラ。演じることは自分を失う事なのか。何度も繰り返すことのできるものは、その一つ一つを大事にすることはできないのか。人生をどう生きるのか。「好きです」の言葉が印象的だった。2013/09/12