出版社内容情報
生物学から生命体科学へ。
私たちも組織も社会も、すべて生命体である。生命体科学は生命体に共通する論理を原理的に明らかにするとともに、生命体が存続しつづけるための適応戦略を私たちに示してくれる。生命体は秩序あるシステムとして存続しながら、自己組織と自己崩壊を内在する超システムとしての本質を秘めている。生命体を生み出した進化ゲームの脱構築が、ヒト社会の持続可能性の核心に迫る。
●はじめに
●第1章 鋳型と積み木
生命体の共通言語を理解しよう/生命体の鋳型の発見/ゲノムからタンパク質へ/化学機械としての生命体/生命体と秩序
●第2章 振動子と要素サイクル
リズムの集まりとしての生命体/引き込み現象/非線形振動子の集まりとしての生命体/要素サイクルの集合
●第3章 並列分散のネットワーク
細胞の集まりとしての生命体/身体の運動の分散性/筋肉の運動と分子エンジン
●第4章 ゆらぎから秩序へ
位置情報と散逸構造/シナジェティックスと動的協力性/複雑系とカオスの縁/自己組織臨界性と超システム論
●第5章 生命体とオートポイエーシス
生命体を内部からとらえ直す/オ-トポイエーシスとは何か/オートポイエーシスとしての人と組織
●第6章 オートポイエーシスとしての免疫系
観測者の視点/オートポイエーシスの視点/特定の関係/カップリングから主体の統御へ
●第7章 生態系の遷移から進化へ
進化の場としての生態系/二つの個体群の相互作用/群衆の栄養構造/群衆の多様性と風景/生態系の遷移と進化
●第8章 進化と適応の文法
存在論・認識論・行為論と進化/進化と適応の意味/
はじめに
文化生態学シリーズの第1巻である『文化生態学の世界』は、文化生態学のねらいが「豊かな日常生活を再生産していくことにある」という確認に始まって、そのねらいは生命系社会に向かうことで実現されるという主張にたどりついて終わっていた。第1巻で概観したそのねらいと主張を、第2巻から詳細に基礎づけて大胆に発展させていくことにしよう。
第2巻では、文化生態系を支えているもっとも基礎の学問である「生命体科学」に注目しよう。生命体科学が文化生態系をとらえ直し、デザインし直していくための方法論になってくれることを主張しよう。文化生態系は生命体の集まりからなっていて、生命体の進化の流れのなかで現代社会も生み出されてきた。生命体の持っている論理は、文化生態系に貫かれているはずである。
文化生態学は学問の最先端の成果を総合しながら、「よく生きてよく死ぬ」という豊かな日常生活を根本から支えることをねらっている。日常生活を支えてくれる学問分野はたくさんありそうだが、文化生態学にとって三つの学問分野がとくに重要だと私は考えている。生命体科学の役割を位置づけるために、その三つの学問分野について最初に確認しておきたい。ある。豊かな日常生活は身体が支えるが、言葉もまた身体の一部なのである。言語学者のピンカーは、象にとっての長い鼻と人間にとっての言語が、同じくらいに複雑な「身体の器官」としてとらえられることを強調している(ピンカー、一九九五)。私たちは言語理論の最先端の成果を学ぶことで、道具としての言葉のよりよい使い手になり、日常生活がいっそう豊かになるだろう。言語理論とその応用については、第4巻と第5巻で行うことにしよう。
三つめが「生命体科学」である。活動理論も言語理論も、そのもとには生命体の営みがあり、生命体の進化の過程で生まれてきた。すべての学問の基礎には、生命体がかかわっているのである。私の好きな桑原武夫の言葉、「学問は生物学に根ざし」ているというのも、このことを的確に表現している。しかし学校などでは、生物学を自然科学あるいは理科の一分野として位置づけ、これを社会科学や人文科学と切り離してしまっている。生命の一側面を「もの(物質の物理化学)」としてとらえることも可能なので、学校で広く行われている生物学の扱いもまったく間違っているわけではない。しかし社会科学や人文科学も根本のところで生物学に根ざしてることにも、注目ち自身を語ってくれる懐かしい学問でもある。生命体科学を学ぶことで、私たちの日常生活は豊かでいとおしい存在として再登場してくるだろう。
この本では、生命体科学を3部に分けて論じていこう。生命体は自らの日常生活を再生産し、さらには子孫を再生産しながら、何としてでも存続を目ざす存在であり、その存続の秘密は「システムとして存在している」ところにある。システム論と呼ばれる学問が、理工系から社会人文系まで、広範囲に影響を与えているが、その源は生命体にある。そこで第1部では、「システムとしての生命体」に注目することにしよう。
存続の秘密をとらえたあとで、生命体の生成と消滅の側面に話を進めよう。生命体は存続するだけでなくて、変身しつづける。自らを組織し、自らを崩壊させるのもまた、生命体の本来のあり方である。生命体のそうした動的な側面に注目して、第2部で「超システムとしての生命体」を論じることにしよう。生命体の秩序に注目するのが「システム」の視点であるとすると、秩序と無秩序の境い目に注目するのが「超システム」の視点となるだろう。
生命体の秩序も無秩序も、長い進化の過程のなかで生成と消滅をくり返してきた。生命体は進化
『文化生態学叢書』は全6巻です。ぞれぞれの巻のタイトルは下記のとおりです。
第1巻:文化生態学の世界―文化を持った生物としての私たち(好評発売中)
第2巻:方法としての生命体科学―生き延びるための理論(好評発売中)
第3巻:経済と経営の文化生態系―意欲に支えられた協働(2003年10月刊行予定)
第4巻:道具と記号の文化生態系―人工物に媒介された活動(2004年5月刊行予定)
第5巻:生活と民俗の文化生態系―多声が響きあう共同体(2004年10月刊行予定)
第6巻:文化生態系の複雑適応戦略―すみわけによる協調の実現 (2005年5月刊行予定)
内容説明
私たちも組織も社会もすべて生命体である。生命体科学は生命体に共通する論理を原理的に明らかにするとともに、生命体が存続し続けるための適応戦略を私たちに示してくれる。生命体は秩序あるシステムとして存続しながら、自己組織と自己崩壊を内在する超システムとしての本質を秘めている。生命体を生み出した進化ゲームの脱構築が、ヒト社会の持続可能性の核心に迫る。
目次
第1部 システムとしての生命体(鋳型と積木;振動子と要素サイクル;並列分散のネットワーク)
第2部 超システムとしての生命体(ゆらぎから秩序へ;生命体とオートポイエーシス;オートポイエーシスとしての免疫系)
第3部 進化ゲームとしての生命体(生態系の遷移から進化へ;進化と適応の文法;文化生態系の進化)
著者等紹介
西山賢一[ニシヤマケンイチ]
1943年新潟県三条市に生まれる。1971年京都大学大学院理学研究科博士課程修了。1972年京都大学理学博士。1971~1977年九州大学理学部助手。1977~1981年東京大学薬学部助手、講師。1981~1989年帝京大学経済学部教授。1989~1993年国際大学教授。1993年~埼玉大学経済学部教授
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