出版社内容情報
エネルギーを使うほどエントロピーが発生する。これは表裏の関係である…エントロピーを手がかりに「科学技術で環境問題を克服できるか」と問う。
はじめに
1 温度と熱がキーワード
第1章 温度とは何だろう?
1 原子・分子の運動と温度
2 電磁波の働きと温度
第2章 電磁波のエネルギー
1 さまざまな波長の電磁波
2 波のエネルギー
第3章 気体は、液体にも固体にもなる
1 物質の三態変化、気圧
2 水循環に大切な潜熱
第4章 熱とは何だろう?
1 ジュールの実験以前
2 ジュールの実験
第5章 比熱は温まり方の違い
1 比熱とは
2 比熱と海陸風
第6章 太陽光・太陽熱の恩恵を利用しよう
1 一升びんで風呂を沸かすとしたら……
2 太陽の恩恵
2 エネルギーは姿を変える
第1章 エネルギーはどのように姿を変えるか
1 エネルギーの変換
2 核分裂と核融合
3 核エネルギーは石油の200万倍
4 額面通りに受け取れないデータ
第2章 石油エネルギーの利用を転換しよう
1 100年余で台頭した石油エネルギー
2 石油の寿命はあと40年境を汚すエントロピー
4 エントロピーのメガネをかけて
地球環境を見る
第1章 金属の利用とエントロピー
1 鉄―二酸化炭素を増やす
2 ステンレス―エントロピーの大きな合金
3 アルミニウム―二酸化炭素と電気と
4 素材とエントロピー
5 ソーダ工業
第2章 原子力発電は環境を汚染する
1 ウランの再処理からプルサーマルへ
2 100万年の憂鬱
3 行き場のない使用済み燃料
4 エントロピー増加の速度を抑制する
5 プルサーマル計画
第3章 生命系の源は植物にある
1 電気―いいことづくめではない
2 光合成―負のエントロピーか
3 エントロピーは増大している
おわりに
はじめに
1997年12月に、京都でたいへん重要な国際会議が開かれました。気候変動枠組み条約第三回締約国会議(以下、温暖化防止京都会議)です。略して、COP3(The 3rd Conference of the Parties to the United Nations Framework Convention on Climate Change)。
その年、私は東京の杉並区民大学という市民大学で、熱心な市民を相手に、エントロピーのセミナーを担当していました。テキストは戸田盛和先生の『エントロピーのめがね』(岩波書店、1987年)でした。
セミナーのメンバーにとってCOP3は他人事ではありませんでした。私と一緒に、何人も京都まで出かけ、たくさんの人たちと交流してきました。そのセミナーのメンバーが出会った一人に法政大学経済学部の吉岡正志君という学生がいました。彼は、市民がエントロピーを勉強していることを知って驚き、COP3が終わって法政大学に戻ってきて、私にこう言ったのです。
「市民たちが勉強しているエントロピーを昼間の大学生である僕らが学べないって、おかしいんじゃないでしょうか。僕らにも講義してください」
こう言われてひっこむわけにはいきません。法政大学経済学部の3.4年生の専門科し犠牲にしても、わかりやすさを心がけました。巻末には、さらに進んで学びたい人のために参考文献をあげておきました。
私の講義内容が七つ森書館の編集者の目にとまり、このような形で「市民科学ブックス」の一冊に加えられたことは、大変うれしいことです。広く読まれることを期待するゆえんです。しかし、浅学非才の身、思わぬ誤りがあるかと思います。その場合は、どうぞご指摘くださいますよう、お願いいたします。
人類は今、未曾有の環境危機に直面しています。日本を含めて工業先進国はこのことについて直接的な責任があると思いますが、一般にそのように認識されているかといえば、残念ながら、そうとは言えません。
ゼロエミッションとか、逆工場とか、耳障りのいい物言いが、しばしばなされます。ゴミをまったく出さないことが可能なのだろうか、ゴミや排出物を主たる資源にして工場を運転できるのだろうかと素朴な疑問をもつ人が多いでしょう。
物理学にはエントロピーという概念があります。大学の理学系ではきちんと学ぶのですが、一般にはわかりにくいとされています。しかし、化学の研究室ではエントロピーを測定していたり、極低温の物理の研究室ではエントギーだけを取り出してそれを利用しておしまいということにはならず、エネルギーを使えば使うほど、「裏の顔」であるエントロピーもたくさん生み出してしまいます。その結果、現代社会では生産の縮小が起こり、環境は汚れ、取り返しのつかない状態になりつつあります。
現在、工業先進国ではLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)が言われています。人間が使うあらゆる品物の「ゆりかごから墓場まで」、すなわち原料の時点からゴミになるまでの間にどれだけ環境負荷を生み出すかを計算し、その製品を評価しようというわけです。原料を取り出す段階でどれだけエネルギーを使ったか、製品にしていく段階でどれだけ水を汚し、どれだけ二酸化炭素を出したかなど、さまざまな面からチェックするのです。
エネルギーには位置のエネルギー、運動エネルギー、電気エネルギーなどいろいろありますが、一番わかりやすく、かつ一番重要なのは、熱エネルギーです。これをどう理解して、どう管理するかが、今、世界規模で問題になっていて、1997年12月のCOP3でも、このことが議論の中心でした。
地球全体に熱エネルギーがたまりすぎていて、このままいけば、地球の気温が上がってし
内容説明
エネルギーを使えば使うほど、「裏の顔」であるエントロピーが発生する。その結果、環境は汚れ、取り返しのつかない状態になりつつある。エントロピーを手がかりに、「技術で環境問題を克服できるか」という問いを見るとどうなるか?思いもかけない姿が見えてくる。
目次
1 温度と熱がキーワード(温度とは何だろう?;電磁波のエネルギー ほか)
2 エネルギーは姿を変える(エネルギーはどのように姿を変えるか;石油エネルギーの利用を転換しよう ほか)
3 エネルギーの裏の顔はエントロピー(エントロピーの元祖サジ・カルノーの生きた時代;カルノーと蒸気機関 ほか)
4 エントロピーのメガネをかけて地球環境を見る(金属の利用とエントロピー;原子力発電は環境を汚染する ほか)
著者等紹介
山口幸夫[ヤマグチユキオ]
1937年新潟県生まれ。1965年、東京大学数物系大学院修了。物性物理学専攻。工学博士。米ノースウエスタン大学、東京大学を経て、現在、原子力資料情報室共同代表。法政大学、中央大学、青山学院大学で環境論、技術論、科学思想史を担当している
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