内容説明
本書では、林金兵衛(1825~1881)と、福沢諭吉(1835~1901)という二人の人物を扱っている。生没の年代を見れば、ほぼ同時代人であることがわかる。農民林金兵衛は、徳川幕藩体制の社会で、代々引き継がれてきた林家をまもって生きていた。時代の流れがゆるやかに進んでいれば、生業である農作業が年々平穏無事に繰り返されたであろうし、農民の信望を一身に集めた村政の良き指導者として、平和な生活を過ごしていたにちがいない。一方福沢諭吉は、封建時代に限りない疑問をもって生きた人間である。「門閥制度は親の敵でござる」という言葉は、福沢の封建制度に対する憤りを示す代表的なものである。またこれが福沢の行動の原点にもなった。したがって、福沢は、こうした時代の流れを変革しようと、常に先見性をもって、懸命に生きた人物であったといえる。この福沢と林、二人の事歴やその時々の直面する場面からほとばしり出る葛藤や苦悩の姿を冷静に見つめることによって、人物の出会いとは何か、どうして出会うのか、出会えたのか、出会った人物は、お互いにどのように変わってゆくのか、といういくつかの問題点がでてくる。こうした問題点を、「春日井郡地租改正反対運動」という歴史的事実を通して、整理することが本書の目的である。
目次
第1部 豪農林金兵衛と福沢諭吉(林金兵衛の生涯―草薙隊と地租改正反対運動;林金兵衛と春日井郡四三ケ村地租改正反対運動―福沢諭吉との関連をめぐって;林金兵衛と「愛知県議会第一回通常県会」)
第2部 福沢諭吉思想の地方伝播(『尾張之国春日井郡四十二ケ村倹約示談』にみる福沢諭吉の「倹約」思想;春日井郡四二ケ村自力更生運動と『倹約示談』―村落経営再建への道(一)
春日井郡四二ケ村自力更生運動と「自力社」の設立―村落経営再建への道(二)
福沢諭吉の「愚民観」について―「長沼事件」「春日井事件」を中心にして
時代と人間の出会い―福沢諭吉と出会った二人の農民指導者)