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日本海の成立―生物地理学からのアプローチ (改訂版)

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  • サイズ A5判/ページ数 230p/高さ 21X15cm
  • 商品コード 9784806710837
  • NDC分類 455.1
  • Cコード C3044

出版社内容情報

毎日出版文化賞、大佛次郎賞等を受賞した著者が、日本海における10年間の調査・研究から、謎を秘めた海「日本海」の成り立ちにアプローチする。
画期的な科学書であり、一大ロマンの書でもある。

【内容紹介】本書「あとがき」より
 1953年、学窓をでるとすぐに、私は、新潟市にある水産庁の日本海区水産研究所に勤めた。山ぐにに育った私は子供のころから海にあこがれていた。海とそこにすむ生物たちのことを勉強したいというのは、学生時代からの熱い夢だった。その夢がかなえられるのだから、私は期待と希望に胸をふくらませて赴任した。
 はじめての調査船に乗り、海---日本海の自然にふれたときの感激は忘れることができない。今から考えると、なんともお粗末な調査船であったが、当時の私にはそんなことはどうでもよかった。じかに日本海のふところに抱かれ、その優しさ、ときには荒々しさをからだで感じとれれば、それで十分だったのである。早春、みぞれの降る日本海上で、体をガクガクふるわせながら、プランクトンの採集をしたこともあった。しけの時には、船酔いでフラフラする頭に歯をくいしばりながら、水温の読みとりをおこなった。夏の炎天下でも、300mの深さから汲みあげた水は氷のように冷たかった。分析用に採取して残った水を私は飲んでみた。冷たさがキュッと腹にしみた。はるかシベリアの沿岸で冬季対流をおこなって形成された日本海固有の水だ。私は、日本海と一体になりたかったのである。
 海上にでて体験したさまざまなこと---もちろん、その大部分は、その道のベテランにとっては、とるに足りぬ、ささいな、くだらないことであったにちがいないが---を、私は克明にノートにメモした。それらのノートは今でも私の引きだしに大事にしまってあるが、ひもとくと、当時のことがまざまざと思いだされて、胸があつくなる。
 そのうち、私はおぼろげながら、日本海の生物相が、太平洋側のそれとはどうもかなりちがうのではないかということに気がつきはじめた。このことを、たとえば、書物などを通して頭で知ったのであったら、おそらく私は日本海の研究なんぞを自分のテーマに選びはしなかったであろう。からだを通して、実感として、それを感じとったからこそ、その疑問は私にまといついてはなれず、私を駆り立ててその解明に向かわせた。そして、いろいろ調べているうちに、はしなくも、これは、日本海の現在の海洋構造のみならず、日本海がこれまで経過した歴史=日本海の発達史とも深い関係をもっているのではあるまいかという考えに導かれたのである。私が日本海の生物地理学的研究をこころざすようになったきっかけは、じつに、このような体験であった。以来、私は当時までに知られていた生物の分布資料を可能なかぎり蒐集し、また、私自身の発見をも含めて、日本海の生物群集の分布像を明らかにすることに熱中した。それと同時に、日本海とその生物相の歴史的発展過程について、自分なりの理解をうちたてるべく努力した。
 本書をひもとかれた読者のなかには、これはいったい科学書なのかそれともSFなのかと、いぶかしく思われる方があるかもしれない。私としては、どちらに受けとられてもいっこうにかまわないと思っている。私たちの考えに共感される方は前者として、反対の立場の方は後者として読まれるだろう。本書のいたるところで、想像の翼をはばたかせた---淡水湖だった日本海、生物群集の大死滅、古アムール河の流れ、日本海の無酸素海盆化、北極海循環の逆転等々、そのいずれをとってもまことに刺激的な問題ばかりだ。これらの問題のあいだをぬってスペキュレーションを網のようにはりめぐらした。
 想像力にうったえる研究は、学問としてはまっとうなものではないであろう。しかし、学問の発展段階によっては、そういうことも必要な場合がありうる。細部の点にばかりとらわれ、実証主義一点ばりにこりかたまった研究には私は興味がない。読者はどうか批判的な眼でよみすすんでいただきたい。学問というものは永遠に未完成なものである以上、なにごとについても批判的な態度で接し、考え、そして、そのなかから、自分自身の自然観・世界観をきずきあげ、完結させて、みずから満足するよりほかに、しかたがない。本書でのべられていることは、著者自身がこのようにしてきずきあげた自然観の粗いスケッチにほかならない。自由な推理、想像の翼を大きくひろげたが、根もないホラはひとつも書かなかったつもりである。

【主要目次】
▲▲1.日本海---この謎をひめた海
     “裏日本”と日本海
     科学的探究のはじまり
     邦人先駆者の活躍
     黄金時代
     新しき発展
     浮きぼりにされた問題点
▲▲2.閉ざされた海
     日本近海の生物相とその分布要素
     固有の問題
     固有種属の分化過程
     固有種属形成の時期
     マリン・タイプの盆地として
     サケ属の起源
     カワシンジュガイとともに
     ウミバト属の分化
▲▲3.最初の植民者
     適応放散をとげたものたち
     適応放散の条件
     激変説
     激変の原因としての海進
     海進はどのようにしておこなわれたか?
▲▲4.湖沼時代を暗示するもの
     淡水湖説のはじまり
     チョウザメの分布
     イトウの歴史
     ウグイの分化
     汽水化・海水化の過程をのりこえて
▲▲5.古アムール河と日本海湖のおもかげ
     Lindbergのえがいた水系
     淡水魚の分布
     古黄河水系との接続問題
     古アムール河淡水魚相の復元
     東北日本と西南日本
     日本海湖の形成史と排水路の問題
▲▲6.入江の時代をへて内陸海へ
     大海進と入江の時代
     入江の時代と適応放散の速度
     入江の環境
     太平洋から隔離
     固有種属はどこからきたか?
     沿岸性群集の大移動
     大移動のメカニズム
     氷河活動をめぐるEwing-Donnの仮説
     北太平洋と北大西洋
     世界地史のなかでの日本海
▲▲7.日本海とその生物相の完成
     気候の寒冷化
     深海盆問題によせて---日本海の深海群集
     深海群集の起源
     氷期における避難場所としての日本海
     いつ深海盆化したか?
     海峡接続の問題
     朝鮮・対馬両海峡の成立時期をめぐって

内容説明

本書は、毎日出版文化賞(『地球の海と生命』により)、大仏次郎賞(『リンネとその使徒たち』により)等を受賞した著者が、日本海における10年間の調査・研究から、生物地理学的手法を用いて日本海のなりたちにアプローチした、画期的な科学書であり一大ロマンの書である。

目次

日本海―この謎をひめた海
閉ざされた海
最初の植民者
湖沼時代を暗示するもの
古アムール河と日本海湖のおもかげ
入江の時代をへて内陸海へ
日本海とその生物相の完成