内容説明
世界が認めるYoko Ogawaの文学。その創作の秘密と全体像に迫る!ヒロシマナガサキを語る。ニューヨーク・タイムズ誌掲載のエッセイ「死者の声を運ぶ小舟」収録!
目次
第1章 死者の声を運ぶ小舟
第2章 世界は小川洋子の文学をどう受容したか
第3章 フランス語圏の小川洋子
第4章 インタヴューズ
第5章 小川洋子のつくり方
第6章 全作品解説
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
369
こんなタイトルだが、要は小川洋子に関する諸々を寄せ集めてきて1冊の本にしたてたもの。ニューヨーク・タイムズに寄稿したもの、海外での小川文学の受容、とりわけ人気も評価も高いフランス語圏の記事、インタビュー(堀江敏幸と千野帽子)、そして小川洋子の講演録が3つ。一番有意義だったのは、彼女の講演での発言、例えば「言葉で書かれた小説を読むことによって、言葉が届かない場所へ行っているかもしれない」、「結局、作者自身、自分が書いているものの意味を考える必要なんてない。ー中略ー作者の手を離れたところで、その小説が⇒2023/10/02
ろくせい@やまもとかねよし
181
小川創作を深く知る貴重な記録集。海外インタビューや大学講演などの文字起こしが収録。さまざま異なる環境で発せられる言葉だが、作家人間としての彼女の心棒に触れる幸せな読書となった。「言葉は人間の本心を隠す」と自覚し、「人間の内面は言葉で表現できない」と認めるが、「逆に人間が意識していないものを言葉で表現できる」と確信している。私には、この無意識な情動や情緒が人間の幸福だと、小川さんが教えている気がした。学生などへの小川さんの応対は、優劣や上下をまったく感じさせない真摯な態度。彼女の尊敬すべき人柄も感じさせた。2021/09/11
ちゃちゃ
123
小川洋子は、私にとって同時代を生きる作家としては特別な存在だ。彼女の作品を読み、"物語"が持つ意味や力を改めて考えるようになった。彼女が作品で取りあげるのは、誰もが顧みない社会の片隅にうち捨てられたような存在だ。その小さき声にひたすら耳を傾けて掬い上げる。そこにあるのは、文学に対する真摯な姿勢と信頼だろうか。自分の筆ですべて書き尽くすことはない。着地点も定まらぬまま、創作上の余白を読み手と埋めてゆこうとする営みである。生と死の混じり合う静謐で深遠な世界観が、これからも私を魅了することは間違いないだろう。2021/12/13
アキ
110
村上春樹の井戸にあたるものが、小川洋子にとって洞窟になるのだろうか。閉ざされた空間、あの世とこの世の行き来、言葉を持たない物のありありとした描写からなる世界。何か自分の中にあるものを繰り返し磨き上げるように小説を書き続けてきた、彼女のインタビューを中心に編集された本書。編集担当の大槻氏はデビュー作でも担当だった方。巻末のデビューから現在までの37作品の紹介と解説があり、その内11作品は既読であった。この本をガイドに、デビュー作から追いかけてみようかな。フランスで映画化された「薬指の標本」も見てみたい。2021/10/02
ハイランド
99
氏がこんなに海外で評価されているとは知らなんだ。正直言うと彼女の本は両の手で足りる程度しか読んでいない。だから的外れかもしれないが、彼女の小説は喪失(あるいは欠損)を抱えた人間の何処か歪んだ生を描いていると感じていて、とても魅力的なのだが、読み続けていると自分自身がその世界に取り込まれてしまうような不安も感じさせてしまう。と言いつつ、最後の過去の小説の解説を読むと、処女作から順に全作読破したくなる欲望にかられてしまうではないか。あと10年もしたら、彼女がノーベル文学賞候補になっているかもとふと思った。2022/01/17