内容説明
近代の市民社会と消費社会の条件であり、主体の自由意志に基づいてなされる「選択」には、いかなる限界があるのだろうか―。オランダの大学病院における糖尿病外来の調査を軸に、予測や制御が不可能な事象に向かい合う方法である「ケアのロジック」を抽出し、医療の現場を超えた私たちの生の指針を描き出す、現代人類学における新たな実践の書。
目次
第1章 二つのロジック
第2章 消費者か患者か
第3章 市民と身体
第4章 管理と手直し
第5章 個人と集団
第6章 実践における善
著者等紹介
モル,アネマリー[モル,アネマリー] [Mol,Annemarie]
1958年、オランダ、シャースベルフに生まれる。アムステルダム大学教授。人類学者、哲学者
田口陽子[タグチヨウコ]
1980年、広島県に生まれる。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。専門は文化人類学、南アジア地域研究。現在、県立広島大学新大学設置準備センター准教授
浜田明範[ハマダアキノリ]
1981年、東京都に生まれる。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。専門は医療人類学、アフリカ地域研究。現在、関西大学社会学部社会システムデザイン専攻准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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文狸
4
冒頭で、「ケア」と「治療(キュア)」の区分は避けると宣言していたことにまず掴まれた。「慢性疾患の人びとの生活と身体に対する介入が、しばしば知識集約的で科学技術に依存していたとしても、それらの介入をケアと呼ぶ正当な理由がある」(28ページ)。 それからモルは、「自由に選択してもよい。ただしその結果についての責任はすべて患者が負うべきだ」という「選択のロジック」で議論し続けるには弊害があるとして、支配—自由という対立軸からケア—ネグレクトという対立軸を設定し直すことを目指す。 2020/09/04
ポカホンタス
3
大したことを書いているとは思えなかった。ケアのロジックを選択のロジックと対比して論じてしまうことで、すでに一定の枠組みが与えられてしまっている。窮屈で倒錯した感覚を覚えた。2022/12/28
KATSUOBUSHIMUSHI
1
医療の現場で過剰にもてはやされる選択の自由に対抗するため、ケアのロジックを丁寧に言語化していく。政治や科学にまで翻訳できる可能性に触れつつも、ほとんどの部分は糖尿病医療の現場のケースに基づいて冷静にケアのロジックの基礎を描いている。ケアに関わったこのとある人には当前の内容だと思うが、選択のロジックと対応させつつ言語化することに意味があると思う。個人的には、接客のアルバイトをしていた時に感じた避けようのない失敗に対する軽い絶望感を晴らしてくれるような内容だと思えた。2023/03/28
Kan T.
0
「どうすればこのケアのロジックを、自分の身の回りの物事のケースにあわせて翻訳できるのか」を考えながら再読。2021/09/07