内容説明
自然の“掟”と人間の“風習”とのはざまで。20世紀後半のサンパウロ、長年判事を務めた夫の死後、一人残された老女マリア・ブラウリアは、愛人からもらった宝石を胸に抱きながら自らの過去を振り返る…。人間の嘘やいつわり、社会の擬装や欺瞞を、ブラジル文学を代表する女性作家があばく。
著者等紹介
ヒベイロ・タヴァーリス,ズウミーラ[ヒベイロタヴァーリス,ズウミーラ] [Ribeiro Tavares,Zulmira]
1930年、サンパウロ州サンパウロ市に生まれる。1952年にサンパウロ美術館付設の映画学校で学び、その後シネマテッカ・ブラジレイラやサンパウロ大学大学院芸術コミュニケーション研究科で映画研究にもあたる。1991年に『家宝』で文学賞ジャブチ賞を受賞した
武田千香[タケダチカ]
神奈川県に生まれる。東京外国語大学大学院教授。博士(学術)。専攻、ブラジル文学・文化(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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かもめ通信
19
1991年にブラジルで最高の文学賞と言われるジャブチ賞(小説部門)を受賞したというこの作品。130ページほどの比較的短い作品の中に、語りのリズムや表現の美しさが感じられるのは、作家というより詩人として知られている著者の作品を、訳者が丁寧に訳したからに違いない。 真相は?真実は?と考えながら読み進めるうちに、「本物」の意味についてもまた考え始める。 この世に不純物を一切含まない純粋な物などあるのだろうか。幸福とはいったいなんだろうか、と。2021/08/14
TSUBASA
15
判事の夫を亡くした未亡人は夫からもらったピジョン・ブラッドのルビーを鑑定してもらうが、それが偽物だと判明する。ルビーの来し方、未亡人が愛人に抱く情熱、判事の欺瞞と品格への苦悩といったものの変遷がたどられる。読んでる間、詩的でもあり戯曲的でもあり、かなり文章の色合いがキラキラと変わってる様子を感じられた。あとがきを読んでハッとしたが、一つの表現手法や単語の意味に固着しないこと自体が著者が意図した文学の表現であるとのこと。訳にも苦労した様子で、読みにくい箇所はあったが再読するとまた色合いが変わるかもしれない。2022/05/08
Tomoko.H
10
理学療法士兼秘書と夫ムニョス氏のいかがわしい(?)関係っていうのがずっと気になってしまった。「彼」って言ってるよねえ?私の読み間違いなのか、そういう人なのかモヤモヤしながら読んだ。ルビーの件は、最初から詐欺(ムニョス氏の態度といい怪しい)だったのかとも思った。「人生経験」のことを「生(ヴィーダ)」呼び、友達か師匠みたいに擬人化した書き方をしているのは新鮮。2018/04/04
急性人間病
2
曇りなき模造品のルビーと、瑕疵の内在する“カボッシュ”のルビーの対置を軸として、ある種乱暴に“本音と建前”と言ってしまえそうな主題が幾度となく再起されるが、同時にその区分けを無効化してしまうようなものがある。真と偽ではなく、複数の使い分けというべきものがあるばかり。(結果的に)その宝石が模造品であると知っているはずなのに、鑑定結果に対してマリアが取り乱す冒頭が、読後思い返すにあたって活きてくる感じがした。2024/06/08
図書館小僧
2
装飾が多くて、遠回しで、つかみとりづらい表現に難儀した。やっぱりラテンアメリカ文学は敷居が高い。翻訳者も訳すのにだいぶ苦労したらしい。そうだろうねぇ。でも妙に惹きつけられるものがあって、読み進めてしまう謎。2024/04/20