内容説明
生真面目で安定的なアイデンティティからの撤退。アクター・ネットワーク・セオリーの旗手の一人である著者が、オランダの大学病院を調査し、動脈硬化と呼ばれる一つの病が、様々な行為や場所、診断と治療の相互作用のなかで、複数性を帯びて存在していることを説得的に論じる。人類学の存在論的転回に多大な影響を与えた民族誌。
目次
第1章 疾病を行う
第2章 様々な動脈硬化
第3章 調整
第4章 分配
第5章 包含
第6章 理論を行う
著者等紹介
モル,アネマリー[モル,アネマリー] [Mol,Annemarie]
1958年、オランダ、シャースベルフ(Schaesberg)に生まれる。アムステルダム大学教授。人類学者、哲学者
浜田明範[ハマダアキノリ]
1981年、東京都に生まれる。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、関西大学社会学部准教授(医療人類学)
田口陽子[タグチヨウコ]
1980年、広島県に生まれる。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、一橋大学社会学研究科ジュニアフェロー(文化人類学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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渡邊利道
3
ラトゥールの影響を受けて、医療実践の中で疾病が複数のヴァリエーションをともなって「実行」されていくプロセスをアクターとネットワークの観点から分析。時空間に分岐した意味と行為のアマルガムとでもいったもので、実在を問題にせず、実践レベルで立ち上がる疾病の多重性に注目する。人類学の語り口で、展開は哲学。長い注釈がほぼサブテクストのようによりそうスタイルも独特で、そこで展開される批評的=文献学的議論も興味深い。まだ少し試論的というのか、問題の端緒と言った感は否めないがとても刺激的な論考だった。著者はオランダ人。2017/10/15
文狸
1
再々読。こんな文章を書いた。https://satzdachs.hatenablog.com/entry/2023/11/02/2322452023/11/11
☆☆☆☆☆☆☆
1
これすごいな。言ってしまえば一つの病院の観察記録なのに、こんなにエキサイティングな民族誌になるんだなと。人やモノや言説からなる関係性の畳み込まれた人間身体(もちろんそれは皮膚で明確に区切られたりはしない)が、個別の実践情況のなかでその都度enactされて別様に実在化するって話なんだけど、グレッグ・イーガンのSFでも読んでるような感覚になった。2017/02/22
kys
0
民族誌として読むと読みやすいし、ひじょうに面白い。理論的な枠組みを掴むのは難しい。通常なら先行研究のなかに位置づける部分をサブテクストとして外に出しているので、民族誌部分は読みやすくなっているが、それによって、理論的な枠組みにどう位置づけるのかをサブテクストで読み直すことになる。サブテクストはやや難解で、参照される文献が多いがそれらの内容を丁寧に示してくれるわけではないので、これをまったく無視すれば読みやすい本と言えるが、これにこだわり始めるとけっこう大変。
文狸
0
臨床医をやったうえで、自分の働いている場がここにあるな、という感覚を得ながら読めたのがよかった。あとはストラザーンを読んだうえでここに戻ってきたことで、観点主義とポスト多元主義、「一よりも多いが、多よりは少ない」等の問題意識がよりわかった。前回読んだときは前半に気を取られていたが、後半も良いこと書いてた。ただ複数の善などの話は、一つの実在にも過激な構築主義に陥らないというスタンスが通底しているのはわかるが、まだケア論との接続がうまくいっていない。2022/07/25