内容説明
「美」、あるいはそれを感じること自体に潜む危険を解き明かした一冊。高村光太郎の詩「必死の時」やジブリ映画「風立ちぬ」を例に、人を幻惑し、判断をくるわせてしまう「美」の危険性を指摘。さらにトーマス・マンの『魔の山』で描写された結核患者や戦時中の「散華」をとりあげ、「美」を感じようとする人間の感性が負を正に反転させてしまう驚くべき作用についても論じる。
目次
美と感性についての基礎理論
第1部 美は眩惑する(「美に生きる」(高村光太郎)ことの危険
アニメ『風立ちぬ』の「美しい飛行機」)
第2部 感性は悪を美にする(結核の美的表象;「散華」の比喩と軍歌“同期の桜”)
著者等紹介
津上英輔[ツガミエイスケ]
美学者。成城大学文芸学部教授。1955年、東京生まれ。東京大学文学部および同大学院修了。博士(文学)。フライブルク大学で音楽学を専攻。同志社女子大学専任講師、成城大学助教授を歴任。その間、イェイル大学客員研究員、ストックホルム大学客員教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ハチ
13
美学からの提案て、なかなか今まで無かったんじゃないですか。斬新な視座からの危険注意信号だったので、興味深く読んだ。今、美学・美意識・芸術の再評価が高まり関連書籍も多い中、かつ自分の読書も芸術に傾いていたから余計、多角的な視点を得られた。2019/10/16
奏市
12
感性だけで物事を判断せず、知性・理性を用いることの必要性を説いた書。予想より理屈重視の内容で難しい部分もあった。美が危険など考えたこともなかったが、美もしくは美化が人を死に追いやることがあるというのは、説得性があった。端的な例は、桜のように散った特攻隊。遠藤先生の『白い人』で悪の魅力に陶酔しかけたのは、美の持つ作用だったのかも。ヨーロッパを中心に「結核という病が(特に性的に)魅力的に、また芸術家風にするという固定観念が蔓延した」時代があったとは驚き。病に限らず、負をもつから美しいってことはあるかと思う。 2020/01/18
nnnともろー
8
現代では高い価値が与えられがちな「美と感性」の負の側面。感性が暴走し理性と知性が働かなくなるときが危険。高村光太郎や宮崎駿の『風立ちぬ』、「散華」。面白い考察。2020/03/15
星辺気楽
4
哲学的な文章で難解であるが、「美しい」事象には危険な要素が含まれているという現代人に警鐘を鳴らす一冊。2019/11/25
じゅん
4
美は善悪を見えなくするだけでなく、悪を善に反転させうる。 美に生きるというとかっこいいが、それが孕む危険性を意識すべき 2019/11/11