出版社内容情報
維新政権が打ちだした神仏分離の政策と,仏教や民俗信仰などに対して全国に猛威をふるった熱狂的な排斥運動は,変革期にありがちな一時的な逸脱にすぎないように見える.が,その過程を経て日本人の精神史的伝統は一大転換をとげた.日本人の精神構造を深く規定している明治初年の国家と宗教をめぐる問題状況を克明に描き出す.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
HANA
70
本書を読むまでは廃仏毀釈とは、明治政府内の神道狂信者による排仏だけだと思っていたのだが、本書によってその蒙を啓かされた。まずは国民に対する新たな価値観の意味付け、国学者による神道の再編、キリスト教問題、少し読んだだけでもこれだけの意味が込められている事を教えられる。他にも廃仏が政府主導で行われたのではない事や、廃仏が行われた地域の例、それに対する真宗の抵抗とその影響等も詳しく説かれていて読んでいて目を離せない。明治維新が政治的なだけではなく、意識においても価値観の転変である事を思い知らされる一冊であった。2018/10/07
おたま
68
幕藩体制から明治国家への転換期において、国民の形成の際にその統合のイデオロギーとして用いられたのが国学だった。つまり記紀神話に始まる皇統を中心に据えた国家統合を当時の中央権力は推進しようとしていた。そこで、神道が宗教的な権威と国家統合のイデオロギーとして力をもつようになっていく。だが、当時民衆の中に広く浸透していたのは、特に真宗を中心とする仏教であり、隠れキリシタンとしてのキリスト教であり、また民間の土着的な信仰であった。そこで、当時の明治政府は「神仏分離」「廃仏毀釈」を推し進めていく。2025/01/13
ネギっ子gen
63
【神仏分離と廃仏毀釈により、日本人の精神史的伝統は一大転換をとげた】1979年の発刊当時話題になった新書。再読。「はじめに」で、<神仏分離といえば、すでに存在していた“神々”を仏から分離することのように聞こえるが、ここで分離され奉斎されるのは、記紀神話や延喜式神名帳によって権威づけられた特定の神々であって、神々一般ではない。廃仏毀釈といえば、廃滅の対象は“仏”のように聞こえるが、しかし、現実に廃滅の対象になったのは、国家によって権威づけられない“神仏”のすべてである>と。ゆえに、この題名なのでしたね。⇒2024/05/11
さぜん
47
明治維新後の神仏分離令により廃仏毀釈が行われた。国を統一するため神道国家を目指した政府の宗教統制は人の心までは縛れず、お粗末な顛末を迎える。ただ、お上の言う事に忖度し積極的に寺院と仏像を破壊していく行動は現在にも通じている。歴史を知り事実を知る。そこから未来を作る作業が必要だと感じる。2022/02/23
樋口佳之
44
日本のばあい、近代的民族国家の形成過程は、人々の生活や意識の様式をとりわけ過剰同調型のものにつくりかえていったように思われる。神仏分離にはじまる近代日本の宗教史は、こうした編成替えの一環であり、そこに今日の私たちにまでつらなる精神史的な問題状況が露呈している2020/08/26