内容説明
ある日突然、言葉を話せなくなった女。すこしずつ視力を失っていく男。女は失われた言葉を取り戻すため古典ギリシャ語を習い始める。ギリシャ語講師の男は彼女の“沈黙”に関心をよせていく。ふたりの出会いと対話を通じて、人間が失った本質とは何かを問いかける。心ふるわす静かな衝撃。ブッカー国際賞受賞作家の長編小説。
著者等紹介
ハンガン[ハンガン]
韓江。1970年、韓国・光州生まれ。延世大学国文科卒業。1994年、短編小説「赤い碇」でデビュー。2007年に発表した『菜食主義者』で、韓国で最も権威のある文学賞李箱文学賞を受賞。同作で2016年にアジア人作家として初めて英国のブッカー国際賞を受賞した。小説のほか、詩、絵本、童話など多岐にわたって創作活動を続けて、受賞作が多数ある。現在、ソウル芸術大学の文芸創作科教授を務めている
斎藤真理子[サイトウマリコ]
翻訳家。『カステラ』で第一回日本翻訳大賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
旅するランナー
179
「ときどき、不思議に感じませんか。私たちの体にまぶたと唇があるということを。それが、ときには外から封じられたり、中から固く閉ざされたりもするということを」視力を失いつつある男と言葉を失っている女の邂逅。はかなく美しい世界が詩的に描かれ、静謐な雰囲気の中で鋭く青光りする刃を感じ取ることができる。SNSなどに氾濫する映像と言葉の騒音に疲れた心にしみじみ浸透してくる。2024/12/17
榊原 香織
125
気に入った!この繊細な言語感覚。 言葉が出せなくなった詩人女性と目が見えなくなりつつあるギリシャ語講師の男性と。 ギリシャ語の中動態、プラトン、ボルヘス、ドイツ、いーなー 2025/03/25
buchipanda3
89
古典ギリシャ語、はるか昔に消滅した言語が一人の女と一人の男を結び付ける。二人は共に世界との間に容易ならぬ剣を抱えていた。言葉の重さに沈黙した女、遺伝により盲目になる男。目の前の世界に触れたくても触れられない痛み。それは他者に分かるものではなく、分かって貰えるものでもない。でも剣を挟んだ繋がりは、何も知らずとも傷を触れ合う。「傷つき易いところで一杯の人間の体は悲しい。けれどその体は誰かを抱きしめるために生まれついている」。言語が、言葉が、やさしいピリオド、スプという静かな単語が包み込む。それは覚悟へと誘う。2024/07/25
chimako
84
二人が触れ合うまでの長い長い難解な時間を経て、やっとたどり着く微かな未来への希望。それはやがて視力を失う男のものでも、言葉を発することが出来ない女のものでもなく、二人に寄り添った読み手のものとして心に刻まれる。男はギリシャ語の講師であり、女は受講生である。男は昔愛した女性を失い、女は子どもと離れ離れになる。失くすものは一つではなく、そこに身体的などうしようもない欠落が被さってくる。が、この物語の中の誰も彼らを非難しない。自分自身で納得し、受け入れていく。出合いは二人の光となり得るのか。女の言葉を待つ。2019/05/12
吉田あや
77
「我々の間に剣があったね」。ボルヘスを象るように少しずつ視力を失いゆく世界に生きる男性と、飽和した言葉が自らの内側でその意味を失い、苦しみながらも新たなる言語を獲得するべく古典ギリシャ語を習い始めた女性が、今では使われることのない失われた言語を通し、言語を越えた場所で出会う「生きる」という事の絶望に射す光を描いた物語。どんな言葉も有さず生まれ、自らの言葉をどう獲得していったのか、最早思い起こせないその過程を辿る旅のようでもある。(⇒)2021/10/03
-
- 和書
- 「仕組み化」の経営術
-
- 電子書籍
- スキーグラフィックNo.531