出版社内容情報
高水準の要素技術をもつ中小企業群からなる「日立山脈」。
その濃密な集積の歴史を繙き課題と未来を展望する初の日立総合研究
茨城県日立地区(日立市・ひたちなか市・東海村)には、「日立製作所」を軸に壮大な企業城下町が形成されている。だがそれは、全国に点在する他の企業城下町(鉄鋼・造船・化学等)とはかなり趣が異なる。明治期に日立鉱山付属の修理工場から派生した日立製作所はやがて日本のリーディング企業の一つに成長し、世界的な総合電機メーカーとして重電、家電から電動工具、建機、エレベータ、鉄道車両、音響機器、計測機器、自動車部品、原子力、半導体まで実に多方面に展開、いずれも高く評価され、1980年代には米『フォーチュン』誌で「世界の大企業」(米企業を除く)の第8位にランクインしていた。
これら各部門は多彩な要素技術をもつ中小企業を大量に抱え、独特の垂直的統合(本書ではこれを「日立山脈」と呼ぶ)により組織化された。造船や鉄鋼のように一部門からなる集団ではなく、各事業部門がそれぞれ独自に技術を向上させつつ、垂直的に統合編成されるという際立った形をとったのである。結果、同じ日立製作所の中でも、事業部門により規格が異なるなどの事情が生じた。
ところが、1990年代初頭のバブル経済崩壊以降、日本全体の「失われた30年」を象徴するかのように、日立製作所自体が産業化・事業化の方向性に苦慮するようになる。リーマンショック、震災等を経て、基幹の日立工場が三菱重工業に買収され、JR日立駅前の日立工場の壁には「三菱重工」のロゴが掲示され、市民は大きな衝撃を受けたとされる。
長らく日立製作所の企業城下町として繁栄を極めた日立地区は、次の時代をどのように切り拓いていくのか。本書では歴史構造的な視点をベースに、日立地区の特異な産業集積を要素技術の集合体としてとらえ、この企業城下町の特質を浮き彫りにし、当面する課題と今後の可能性を提示していく。それは日本の地域産業集積論に新たな意味を与えることにもなろう。
内容説明
多彩な工場から成る“日立山脈”の全貌。日本の電機産業をリードしてきた濃密な集積を礎にモノづくりの未来に向かう人びとの果敢な挑戦に刮目。約100事業所訪問!ビジネスマン・行政職員必携の企業城下町大全。
目次
第1章 日立地区産業経済の歴史と輪郭
第2章 日立鉱山と日立製作所、企業城下町の歩み
第3章 日立地区の産業をめぐる諸事情
第4章 日立を象徴する大物加工の中小企業―重電の企業城下町を背景に形成
第5章 モノづくり産業の基盤技術
第6章 電線・組線系の中小企業―電気系で企業城下町を支えてきた
第7章 新たな技術発展に向かう中小企業
第8章 新たな時代を切り拓く中小企業
終章 日立地区の高度産業集積と中小企業の未来
補論1 2011年4月/復興に向かう「ひたち立志塾」と全国ネットワーク支援
補論2 2007年/各地で中小企業の後継者塾がスタート―日立地区、江別市、八王子市/中国とも交流
補論3 2011年11月/震災、復興を契機に新たなステージに向かう―地域と海外を視野に入れる被災中小企業
補論4 2011~15年/原発事故による放射能の影響―水産関連と原発20キロ圏の分工場
補論5 2015~16年/日立地区高度産業集積の典型中小企業
著者等紹介
関満博[セキミツヒロ]
1948年富山県小矢部市生まれ。現在、一橋大学名誉教授。博士(経済学)。ひたち立志塾塾頭。受賞:1984年第9回中小企業研究奨励賞特賞。1994年第34回エコノミスト賞。1997年第19回サントリー学芸賞。1998年第14回大平正芳記念賞特別賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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