出版社内容情報
福岡県北九州市門司区、関門海峡を望む港に、かつて「女沖仲仕【おきなかし】」ないし「女ごんぞう」と呼ばれる女性の港湾労働者たちがいた。本書は、昨秋惜しまれつつ世を去った福岡出身の記録作家・林えいだいが、1970?80年代にかけて彼女たちに取材した記録である。
機械化が急速に進みだす1960年代まで、貨物船からの荷揚げと荷下ろしは人力に頼っていた。船底の荷を網にすくい入れて甲板に引き揚げ、海上の艀【はしけ】へ移す。船中でこの一連の荷役を担うのが沖仲仕である(桟橋に着いた艀から荷を陸揚げする人々は「陸仲仕【おかなかし】」と呼ばれた)。
関門港の北九州側の門司や若松では、明治期から多くの女性が沖仲仕として働いていた。1895年、後日デンマークの婦人参政権運動の主導者となるヨハンネ・ミュンターは、門司で石炭荷役に従事する女沖仲仕の姿に男女平等の理想像を見た。1966年に来日したサルトルとボーヴォワールも、彼女らに会いに門司を訪れ、男と全く同じ仕事をこなす様子に「世界に類を見ない」と目をみはった。
彼女らは男でも音を上げる苛酷な労働に耐え、筑豊炭田と北九州工業地帯の繁栄、ひいては戦後日本の高度経済成長を下支えした。だが60年代以降の「エネルギー革命」と技術の進展にともない、やがてうちすてられていく。林が取材したのは、港から消え去る寸前の最後の「女ごんぞう」たちの姿である。心身を酷使し、時に瀕死の重傷を負いながらも、「沖での仕事が生きがい」と語る女たち。林はその強さと威厳、底抜けの明るさに圧倒され、シャッターを切り続けた。
「港はもう、彼女たちを呼んではいない」(林えいだい『海峡の女たち―関門港沖仲仕の社会史』葦書房、1983年)。だが、職業意識に徹した誇りと自負、たくましさと開放的な笑顔は、林の手で永遠の命を与えられた。(編集部)
林えいだい[ハヤシエイダイ]
著・文・その他
内容説明
近現代を支えた「沖の女たち」。強く、烈しく、美しきその生。サルトル&ボーヴォワールも瞠目した、女性港湾労働者たちの苛酷な仕事ぶりと人情味溢れる素顔に迫る、孤高の記録作家、唯一無二の仕事。150点の貴重な写真を集成。懇切な解説付。
目次
港の朝
沖の荷役
元手はこの身ひとつ
陸に帰る
ごんぞう気質
女たちの道具
消えゆく港の仕事
著者等紹介
林えいだい[ハヤシエイダイ]
1933年12月4日福岡県香春町生まれ。記録作家。2017年9月1日没。早稲田大学文学部中退後、故郷に戻り香春町教育委員会に勤務。1962年、戸畑市教育委員会に赴任、三六地区および東戸畑地区の公民館で婦人学級を担当し「青空がほしい」運動にかかわる。70年、作家専業となる。以後、徹底した聞き取り調査で、公害、朝鮮人強制連行、差別、特攻隊など民衆を苦しめた歴史の闇を暴きつづけた。1967年読売教育賞、1969年朝日・明るい社会賞、1990年青丘出版文化賞、2007年平和・協同ジャーナリスト基金賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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