出版社内容情報
デンマークの教育改革者・思想家グルントヴィについては、戦前から日本にも紹介はされていたが、近年では拙著『新版 生のための学校』(新評論、一九九七年)やハル・コック著『グルントヴィ』(小池直人訳、風媒社、二○○七年)などによって、より詳しくその重要性が認識されるようになった。しかしその場合も、彼のアイディアによるフォルケホイスコーレ(民衆の高等教育学校)運動を中心とした教育への貢献が主に語られた。それ以外では、デンマーク文学史における詩の業績が言及されるくらいである。これは本国においても同様で、グルントヴィは何よりも詩人、教育思想家、歴史家、教会改革者であるという位置づけがなされてきた。
現代デンマークを代表する知識人の一人であるオヴェ・コースゴーは、グルントヴィのこれまであまり顧みられなかった面に光をあてている。本書はつまり、彼を「政治思想家」として捉えたものである。たしかにいわれてみれば当然のことで、近代デンマークの国民・国家形成はグルントヴィと彼の影響を受けた人々、とくにホイスコーレ運動に参加した知識人、民衆によってなされた事業である。
グルントヴィは、体系的なドイツ観念論思想に大いに学びながらも、それを批判するために、あえて体系的な思想を構築しなかった。その意味ではポストモダンな思想家である。こうしたグルントヴィの多様なテキストを渉猟し、あちこちに散らばって示されている彼の政治思想を整理した上で、明快にまとめ上げるその技量はコースゴーならではといえる。しかも恣意的な解釈でないことを示すために、第二部にはグルントヴィ自身のテキストも収載している。これを読めば、デンマークがなぜ今日のような民主的な国家となったかの理由の一端がわかるだろう。(しみず・みつる)
【著者紹介】
Ove KORSGAARD 1942年生まれ。オーフス大学名誉教授。ホイスコーレ校長なども務める。著書に『光を求めて デンマークの成人教育500年の歴史』(川崎一彦・高倉尚子訳、東海大学出版会、1999年)など。
内容説明
教育思想家・教会改革者・詩人と位置づけられていたグルントヴィは「自由と平等の闘士」であった!デンマークが今日のような民主国家になった理由がわかる。グルントヴィの講演記録も掲載。
目次
第1部 政治思想家としてのグルントヴィ(グルントヴィの影響と関連性;身分の時代から民衆の時代へ;国民と人民―想像された共同体;グルントヴィの自由の概念;連合王国から国民国家へ;立憲主義対コモンロー(慣習法)
政治思想家としてのグルントヴィの重要性)
第2部 関連するグルントヴィのテキスト(北欧神話、歴史的・詩的観点から展開され、照明された象徴的言語(一八三二年)
『時代の記憶の中で―一七八八~一八三八年』―最近の半世紀の歴史についての講義(一八三八年)
スレースヴィ救援協会での講演
議会での演説)
著者等紹介
コースゴー,オヴェ[コースゴー,オヴェ] [Korsgaard,Ove]
1942年、デンマーク、モース島に生まれる。1970年、フリーレーラースコーレ(自由教育大学)卒業。同年よりゲァリウ体育ホイスコーレ教員を4年、校長を17年務める。1985~1991年、デンマーク・ホイスコーレ協会会長。1996~2007年、国連認可NGO世界教育機構(Association of world Education)委員長、ユネスコと共同して国際的に活動する。哲学博士および教授資格取得(デンマーク教育大学)。現在、オーフス大学名誉教授
清水満[シミズミツル]
1955年、対馬に生まれ育つ。1991年、九州大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。2012年、北九州市立大学社会システム研究科博士課程早期修了。博士(学術)。専攻はドイツ思想。予備校、大学の非常勤講師を務めながら、デンマークのホイスコーレ運動にヒントを得た教育市民運動ネットワーク「日本グルントヴィ協会」の幹事をしている。日本各地、デンマーク、タイ、ラダック(インド領チベット)などで各種ワークショップを主催。著書に『フィヒテの社会哲学』(九州大学出版会、2013年、2014年度フィヒテ賞受賞)などがある(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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- 和書
- 変種第二号 ハヤカワ文庫