出版社内容情報
本書の主人公・石井筆子は明治初期、将来を嘱望されてヨーロッパに女子留学生として派遣され、華々しい青春を送り、皇室に重用され、知的障害者教育・福祉の分野で先駆的な事業を成し遂げた。にもかかわらず、なぜか後代、「無名の人」となった。
筆子はまた、日本における婦人教育の発展と女性の自立に貢献することを夢見ていたが、運命のいたずらからその夢は実現しなかった。むしろ自ら陽の当たらない場所で、縁の下の力持ちとして生きる道をあえて選んだ。
苦難多き筆子の人生の支えとなったのはキリスト教であり、夫の石井亮一であったと思われる。しかし実は筆子には、遥か離れたデンマークの地にも得難い味方がいた。彼女の不幸な身の上を案じ続けてくれた年上の友ヨハンネ・ミュンターである。日清戦争直後に日本を訪れたヨハンネは、東京で筆子と出会って以来、彼女に生涯変わらぬ友情を注いだ。
筆子のアルバムには、自分の青春の日々を記憶に留めていてくれるヨハンネの写真が大切に貼られていた。一方ヨハンネは、婦人教育の発展に奮闘する筆子の志に打たれ、デンマークに帰国後、主婦の立場を飛び越えて婦人参政権運動にかかわるようになった。筆子の情熱がヨハンネに影響を与え、筆子の成しえなかった仕事が遠い国で実践されることになったのである。
本書では、二人の友情を裏付けるヨハンネの日本回想記『日本の思い出』(1905年)や、デンマークの当時の新聞記事などの新史料をもとに、知られざる「明治の国際人」筆子の輝ける日々をよみがえらせることを主眼とした。また、筆子が間接的にではあれ、婦人教育の国際的発展に影響を及ぼしたことをも明らかにできればと思う。
本書によって、生前国際人として名を馳せた筆子の後世の「無名」が返上されることを祈っている。(ながしま・よういち)
【著者紹介】
1946年生まれ。コペンハーゲン大学異文化・地域研究所DNP特任研究教授。日本・デンマーク交流史のほか、森鴎外、アンデルセンの研究者・翻訳家としても知られる。『森鴎外 文化の翻訳者』(岩波新書)のほか著訳書多数。
内容説明
明治期にヨーロッパへの女子留学生として脚光を浴び、皇室に重宝されながら称賛に値する人生を送り、知的障害者教育の世界でも意義深い事業を成し遂げていたにもかかわらず、なぜか「無名の人」と呼ばれている筆子。日本における婦人教育の発展と、女性の自立に貢献することを夢見たにもかかわらず、日の当たらない場所で縁の下の力持ちになることを選んだ筆子。苦難が多かった筆子の人生において支えになったのはキリスト教であり、夫の石井亮一であったと思われるが、実は、地球の反対側で、筆子の不幸な身を心配してくれていたデンマーク婦人ヨハンネ・ミュンターがいた。ヨハンネの回想記『日本の思い出』(1905年)などの新史料に光を当てることで、筆子の若く溌剌としていた知られざる日々を蘇らせ、世界的な視野で婦人教育の問題を思い描いていた筆子の様子を紹介した。
目次
第1章 鹿鳴館―和装の通訳婦人
第2章 渡辺筆子の娘時代
第3章 小鹿島果との結婚と女子教育
第4章 ヨハンネ・ミュンターの日本滞在
第5章 ヨハンネの回想記『日本の思い出』から
第6章 回想記『日本の思い出』に描かれている筆子
第7章 筆子の打ち明け話―親密の時
第8章 その後の筆子
第9章 帰国後のヨハンネ
第10章 ヨハンネの手紙と筆子の返事
著者等紹介
長島要一[ナガシマヨウイチ]
1946年東京生まれ。コペンハーゲン大学異文化研究・地域研究所DNP特任研究教授。日本・デンマーク関係史のほか、森鴎外、アンデルセンの研究者・翻訳家としても知られる。第3回森鴎外記念会賞、第31回日本翻訳出版賞、2002年コペンハーゲン大学最優秀教師賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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