出版社内容情報
本巻は、藤原保信の一九八九年の著作である『大山郁夫と大正デモクラシー―思想史的考察』に、関連する四つの論文を加えて構成される。西洋政治思想史を専門とする藤原が、ゆうにこの著作集の一巻を構成するに足る日本思想史の業績を残していたことを意外に思われる読者も多いことであろう。しかし藤原の修士論文が、「大正デモクラシーの思想史的一考察――吉野作造と大山郁夫を中心として」(一九六一年)というものであり、その後も大山郁夫を中心とする大正デモクラシーの研究に強い関心を持ち続けたことを考えるならば、日本の思想史に対する関心は、藤原政治学を構成する重要な柱であったとも言えるかもしれない。
本巻の主な研究対象となっている大山郁夫は、早稲田大学教授たるにとどまらず、ジャーナリストとしてまた労農党の委員長として、狭いアカデミズムの枠を超えて活躍した人物であった。大山にあらわれた、学問と実践との統一という一貫した規範意識が、藤原の共感と関心を掻き立てたのである。日本政治思想史という異質な領域を対象にした場合でも、藤原の基本的な研究姿勢にはかわるところがなかった。貪欲な知的好奇心、幅広い研究能力、的確な内在的再構成力、対象への真摯で暖かいまなざし、分かりやすく柔らかい叙述、そして鋭い批判精神や強い実践的関心は、本巻を構成する諸研究においても、遺憾なく発揮されている。藤原は、みずからが西洋政治思想史の研究を通して逢着した理論的課題を、日本という文脈において検証しようとしていたように思われる。市民的自由と政治的自由との対立と統一という問題が、その中心的な課題であった。本書は、こうした政治理論上の課題をめぐって展開された、大山をはじめとする政治思想家たちと藤原との対話の記録である。きわめて理想的・規範的な藤原政治学が、日本という現実とどのような接点をもちうるのか。本巻は、藤原政治学の新たな一面を照らしださずにはおかない。
内容説明
「民衆の時代」を先取した日本政治思想との対話。大山郁夫をはじめとする民本主義の思想と実践の解明を通して、政治的自由と市民的自由との統一を日本的文脈の中で探求。
目次
第1部 大山郁夫と大正デモクラシー―思想史的考察(政治的デモクラシー―政治的機会均等主義;社会改造の根本精神―民衆文化主義;科学としての政治学;無産政党への道―無産階級倫理の基調;結語にかえて―大山郁夫の遺産)
第2部 民本主義の思想史的位置―大山郁夫とその周辺(理想主義と教育―明治三〇年代浮田和民の政治思想;日本の民主化と大正デモクラシー―吉野作造・大山郁夫によせて;大山郁夫―民本主義からマルクス主義へ;デモクラシーから改造へ―「大山郁夫著作集」第三巻解題)
著者等紹介
藤原保信[フジワラヤスノブ]
1935年長野県生まれ。65年早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了。元早稲田大学政治経済学部教授。政治学博士。政治思想史専攻。1969‐71年シカゴ大学、78‐79年オックスフォード大学に留学。日本政治学会、政治思想学会、日本イギリス哲学会などの理事を歴任。1994年没
荻原隆[オギハラタカシ]
1950年生まれ。名古屋学院大学経済学部教授。政治学博士。日本政治思想史専攻
梅森直之[ウメモリナオユキ]
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部教授。PhD(シカゴ大学)。日本政治思想史専攻(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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