内容説明
1964年、東京オリンピックのマラソン競技で、史上初の二連覇を成し遂げたアベベ選手。4年前のローマ大会を裸足で走って優勝したこの無名のエチオピア人は、その寡黙で禁欲的な姿勢から「裸足の哲人」と呼ばれ、いまなお多くの尊敬を集めている。エチオピア最後の皇帝ハイレ・セラシエの親衛隊兵士でもあるアベベは、スウェーデン人トレーナー・ニスカネンの献身的な指導のもと、次のメキシコ大会で前人未到の三連覇を目指す。だが彼は途中で棄権する。哲人に何が起こったのか…。輝かしい栄光に満ちた前半生と、悲劇的な躓きの果てに車椅子に身を預けるほかない後半生。あまりに劇的なその生涯を追う。
目次
第1章 大地の子
第2章 北の国のコスモポリタン
第3章 ローマへの道
第4章 ローマの衝撃
第5章 王者たちの帰還
第6章 栄光の日々
第7章 東京の奇跡
第8章 メキシコの失速
第9章 それぞれの墓碑銘
著者等紹介
ジューダ,ティム[ジューダ,ティム][Judah,Tim]
ジャーナリスト・作家。英国BBCを経てタイムズ、エコノミストの通信員としてバルカン諸国やアフリカの紛争地帯を取材。エコノミストへの寄稿のほか、タイムズ、ニューヨーク・レビュー・オブ・ブック、ガーディアン、サンデー・テレグラフ等に執筆
秋山勝[アキヤママサル]
新潟県生まれ。立教大学卒業後、編集制作会社、出版社を経て現在に至る(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Yoko Kageyama
1
エチオピアといえば、東京オリンピックのヒーロー、裸足の鉄人アベベ、ということで、出発前に大学の図書館で借りて旅行に持って行った。その土地に関連した本を読むのが私のお気に入り。そこの空気や人々の感じ、自分の気持ちなどが本の記憶とセットになって自分のものになる。 アベベの生涯を通して、エチオピアの歴史(最後の皇帝ハイレ・セラシエの事)やスウェーデン人のトレーナー・ニスカネンのエチオピアへの想い、スポーツ選手の栄光と挫折等いろいろなものが見える。大変興味深い内容だった。 2012/08/18
sasha
1
同じ東京オリンピックに出場した円谷幸吉が壮絶な自死なら、アベベは緩慢な自死だったのかも知れぬ。思い通りに走れなくなったランナーの、41年の生涯はあまりにも短い。2011/12/28
シロクマ
1
ローマ、東京オリンピック二大会連続マラソン優勝したアベベは金も入り酒と女に溺れた。交通事故を起し半身不随となった。その後脳出血で41歳で亡くなった。アベベの裏面を知った。面白度94点2011/09/30
まめお~
0
ローマと東京で金メダルをとっていなければ、車を運転することもなく、事故に遭うこともなかったのか・・人生収支トントンと言うにはあまりにも悲劇的な晩年。エチオピアという国、時代、貧しい農家に生まれた、そんなアベベ氏を取り巻いていた環境を思うに・・栄光に溺れても無理はないのでしょうね。2012/05/20
ぼや
0
アベベ・ビキラの生涯を追った一冊。 家庭での振る舞い、エチオピア皇帝に信頼されたコーチ、ニスカネンとの交流、マモ・ヴォルデとのライバル的関係性など、周辺人物からも、アベベの横顔がよく見えた。栄光を掴んだランナーが、名声に溺れ堕落する物語の背景には、当時の身分意識があるように感じる。世界進出で、欧米人向きの顔が作られたように、社交界で、生まれの身分が浮き彫りになった。 その苦悩は、時代の開拓者である証だと思う。アベベは、アスリートとして、社会的な役割を果たしながら、人生の最後まで、人の心を動かし続けた。2022/03/27