内容説明
1927年、内モンゴル・オルドスの西公家に生まれたスチンカンル。彼女は、チンギス・ハーンの血を受けつぐ、今世紀最後の王女のひとりだった。父の死後、生家は没落。母を助け、羊の乳をしぼり、牛を追う日々がつづくが、天性の美貌はかくしようもない。17歳の冬、父の従者だったボロルディと結婚。ひとり息子エルデも生まれ、おだやかに暮らす一家だったが、中国建国後、かれらのゆくてに暗雲がたちこめる。その出自ゆえに反革命分子のレッテルをはられたスチンカンルは、つらい使役にかり出され、祖先をまつる聖地を開墾するという屈辱に甘んじねばならなかった。そして、あの文化大革命が始まる―。文化人類学のフィールド・ワークで王女を訪ねた著者が直接聞いた体験談を忠実に再現。激動の時代を生きぬいた波瀾の半生を描き、これまでほとんど知られていなかった、中国少数民族のこの半世紀の軌跡を明らかにした異色ドキュメンタリー。
目次
第1章 黄金家族のたそがれ
第2章 夜明けの星スチンカンル
第3章 赤い陽は昇ったものの
第4章 夫婦にのしかかる黒雲
第5章 「牛鬼邪神」といわれて
第6章 吹きすさぶ文革の嵐
第7章 名誉回復への道
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kawa
39
中国・毛沢東による60、70年代の大躍進政策から文化大革命による犠牲者は膨大な数だと言う。本書はその時期に、少数民族出身で先祖がチンギス・ハーンという考え得る中で最も過酷な迫害を受ける出自の女性の貴重な記録。独裁者の史上最も悪しき例がここにある。司馬遼太郎氏が遊牧民族であるモンゴル人は、放牧地を開拓してしまう漢人を嫌っていると述べていたが、本書でもその事実が再確認できる。2020/01/29
しんさん
5
狂気の沙汰でしかない文化大革命。我に正義あり、と思い込んだときの人間ほど恐ろしいものはない。原作デビルマンだ。遊牧民のおおらかさか王族の矜恃か、すべてを水に流す主人公に救われる。がんばれモンゴル、ウイグル、チベット。2020/09/14
都忘れ
4
小学生の頃毛沢東について調べて発表したことがあった。当時は毛沢東礼賛の記述が多かった時代。後の時代になって明らかになる犠牲者の多さ、暴挙ともいえる政策の数々に改めて言葉を失う。チンギス・ハーンの末裔という出自を持つ王女スチンカンルに襲い掛かる過酷な迫害に読み進めるのが辛かった。ウイグル、モンゴル、チベットと少数民族への迫害問題は現在進行形のもの。貴重な記録として大切にしたい。2024/02/02
Hiroki Nishizumi
3
時代の波もすごいが、漢民族の勢いも恐ろしい2020/12/28
アルハ
1
世が世なら他者に傅かれ何不自由なく生きるはずだった美姫の人生は生家の没落に始まり、戦争と文革に翻弄され遂には狂気に苛まれる程の苦しみを得た。文革の終わりと共に彼女の苦しみも徐々に氷解したが、それでも文章のみでも伝わるほどに彼女が心身に受けた苦痛は凄まじい。 モンゴルという国家が近代以降いかに中国に翻弄されたか、そして共産国家がいかにして弱者を体制側に取り込み洗脳したかの一端を知ることができる貴重な証言でもある。2024/10/07