内容説明
関東大震災で失われた浅草凌雲閣、通称「十二階」。眼下に吉原を望み、日本初のエレベーター、百美人、戦争絵を擁し、絵や写真となり、見世物小屋、広告塔としても機能したこの塔の眺めが、啄木や花袋らのまなざしをとらえ、「近代」の欲望を体現する。新たにコラム「飛行機は空の黒子」「魔法使いの建てた塔」を増補。
目次
塔の眺め
十二階と風船
人のまなざし・美人へのまなざし
塔とパノラマ
舞姫と塔
まなざしを要するもの
覗かれる塔
眺められるだけの塔
パノラマのような眺め
塔というパノラマ
啄木の凌雲閣
十二階という現在
著者等紹介
細馬宏通[ホソマヒロミチ]
1960年生まれ。京都大学大学院理学研究科博士課程修了(動物学)。現在、滋賀県立大学人間文化学部教授。専門はコミュニケーション論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
28
明治大正期の浅草を扱うに避けては通れない凌雲閣。個人的には乱歩の「押絵」と切っても切り離せない。それが当時の風俗や文学にどのような影響を与えたかを論じている。まずはそこからの眺めを見た後、それを眺める人々の眼差しへ。次いでパノラマとの関わり合いに筆は及ぶ。その後は鴎外、花袋、啄木の塔を巡る文学論へと。ここでも問題にされているのは常にパノラマと視線の問題。大正期の寂れた様子を描いた後、塔の倒壊と共に本書は幕を閉じる。様々な角度から十二階が描かれ、漠然とした印象だったのが急に鮮やかな姿を持ったように感じる。2012/10/29
ハチアカデミー
10
浅草を舞台とした小説に描写される凌雲閣、通称「十二階」の成立と崩壊までを描く。日本初のエレベーターを搭載しその高さは当時の人々を叫喚させた! はずが、本書で描かれるのは、どこか怪しげでいんちきで摩訶不思議な塔としての十二階である。およそ50メートルの高みから双眼鏡で吉原を眺めることを売りにし、塔の中には美人画が展示され、謎の風船男が紙吹雪を散らす。映画館などの興隆によって存在意義を奪われ、最後は広告塔になりはてた悲惨な姿で破壊される。そんな十二階を作家が人々がどのように眼差していたのかを明らかにする力作。2013/12/06
みつ
9
明治23(1890)年開館し、大正12(1923)年の関東大震災で壊滅した当時の高層建築「浅草十二階」こと凌雲閣。建築時に当時珍しい電動エレベーターを備えていたが開業数ヶ月で使用停止になったこと、以後「百美人」のポスターが中層階を飾ったこと、明治末に正式名称が「十二階」になったことなど興味深いエピソードが満載。一方で、約40メートルの高さから人を「覗き」「まなざす」ことで地上の人の視線を受け止める、「塔とはそのような感覚と思考の垂直運動」(p133)とは難解だが、塔によって新たなまなざしが生まれたとする。2021/09/13
元気伊勢子
3
楽しい本。十二階こと凌雲閣に、まつわるパノラマや写真、電燈など様々な角度から検証した話。実際に、あったら、行ってみたかったな。エレベーター日本発は、凌雲閣だそうだ。2020/09/09
たんみな
2
私が十二階に入ることはもう叶わないけど、十二階の概念を私の中に入れることはできるのかもしれないな と。2020/10/17
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