内容説明
戦前の「国家主義者」の代表とされてきた男が、イスラームに生涯惹かれつづけたのはなぜか?いまだ看過されがちなこの事実から、誤解多き思想家の知られざる姿を蘇らせる。
目次
序章 黙殺された思想家
第1章 戦前と戦後をつなぐ想像力
第2章 青年期の転回と晩年の回帰
第3章 日本的オリエンタリスト
第4章 アジア論から天皇論へ
第5章 東京裁判とイラク問題
終章 大川周明にとってイスラームとは何であったのか?
著者等紹介
臼杵陽[ウスキアキラ]
1956年生まれ。東京大学大学院国際関係論博士課程単位取得退学。佐賀大学、国立民族学博物館などを経て、日本女子大学文学部史学科教授。京都大学博士。専攻は中東地域研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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メルセ・ひすい
2
14-18 赤12 ★5 若年はスーフィズム 宋学的認識論。 竹内好先生の謎…なぜ大川のような合理主義者・国家主義者で日本精神のがイスラーム研究の日本における創始者になったのか(思想的断層は多いが…)(?_?) ●参考…山形県出身であり、酒田市図書館光丘文庫には大川周明旧蔵書が所蔵され目録も刊行されている。 岡倉天心の孫、岡倉古志朗‘50.『パレスチナ物語』…日本赤軍はPFLP.バレスチナ解放人民戦線と組み闘争活動をした。。 ∑(゚Д゚)天皇崇拝、アジア主義、東京裁判…。戦前の「国家主義者」の代表2010/11/22
とりもり
1
保守思想の台頭と軌を一にして再評価が進む大川周明だが、「東西文明対抗論」などとは別にイスラム研究の先駆者として評価されているのは知らなかった。宗教学者としてイスラム教の「政教一致」と天皇主権の親和性を見出している一方、その天皇観が天皇機関説的だとして批判を受けてもいる。「新東洋精神」についても中国・インドの反日攻勢という形で裏切られ、敗戦への坂を転がり落ちる日本と相まって、その思想が崩壊したように感じた。「日本精神」の唱導者としての戦犯的色彩はあるにせよ、学術的には再評価されてもいい人物と思う。★★★★☆2024/12/14
Rion
0
大川周明の原著にあたる前に、事前知識として読了。大川が大東亜共栄圏内の多文化主義を、イスラームを通して発見していたという点に興味がわいた。本書では竹内好が発する問いに応えてゆく形で論が進められる。第五章での東京裁判とイラク裁判、大川周明とサダムフセインとの対比を通した読みも面白かった。大川は勝利者による裁きを精神異常によって免れているが、東京裁判の性質をすでに自身で理解していた事実も面白い。本書はイラク戦争が歴史による教訓が生かされていないと批判的だが、日本のアジアに対する目線とも同じといえるだろう。2015/11/04
koala-n
0
特異な宗教学者であり、また大アジア主義のイデオローグでもあり、東京裁判で民間人中唯一A級戦犯として起訴され、しかも法廷で発狂、免訴となりしばらくして狂気から回復、日本初の『古蘭(コーラン)』の個人訳を完成したという無茶苦茶な経歴の人物、大川周明。この怪人物の思想は非常に広範囲にわたるが、その内、イスラームの政体と日本の天皇制の類似点からアジアを一つの共同体足らしめる可能性を探っていたとして、主にその点に照準しながら、大川のアジア主義等を検証していて、かなり現代からみても示唆に富む内容のように感じた。2013/12/29