内容説明
誘惑者の精神史毛皮をまとった人物に鞭打たれることに悦楽を見出した倒錯の作家ザッハー=マゾッホ。その強迫的な創作活動の核は何か。思想史・精神史の水脈から作家の理念を照射する画期的論考。
目次
プログノーゼ 出自―「残虐な女」のイマーゴ
1 増殖する言説(作品;手紙 ほか)
2 人類の自然史(狩猟;農耕 ほか)
3 啓蒙の彼方へ(ダーウィンもしくは淘汰;ショーペンハウアーもしくは涅槃 ほか)
エピクリーゼ フロイトと父権制―書く人としての父親
著者等紹介
平野嘉彦[ヒラノヨシヒコ]
1944年生まれ。京都大学大学院修士課程修了。現在、東京大学大学院人文科学研究科・文学部教授。専攻、ドイツ文学
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感想・レビュー
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endormeuse
1
啓蒙主義者を自任する一方、猛々しい獣に表象される太古的自然に対し屈従とすら呼べそうな憧憬を呈するマゾッホの特異なエクリチュール。換喩的横滑りに基づく奇妙な逆説的連関の構造と、何にもまして性愛的官能の局面において表現されるその倒錯を、法・農耕・進化といった諸々のモチーフから読み解く。2020/11/11
あかふく
1
マゾヒズム論というよりは作家としてのマゾッホの作品についての研究を行い、そこからマゾヒズムに返すというやり方の本。脱思想化、再思想化。頻出する肖像写真などの表象的なものから、そこで作品の生じる、書かれるものとしての紙と毛皮の差異、書くものとしてのペンと鞭の差異。そこで生じる毛皮を着たもの=動物による復讐という倒錯から法と契約の倒錯、その法の起源へ帰っていくことにより見ることができる「自然」のあり方がマゾッホでどのように考えられていたか。2013/01/22