内容説明
アルプス山麓に抱かれた小さな村に暮らす『運び屋』テンレ・ビンタルン。「冬の人」を意味する名前をもつ男は、国境線を行き来し、複数の言語を話す自由人であった。山岳兵として戦争をくぐり抜け、「イタリアのヘミングウェイ」と称賛される作家が、厳しい自然に生きる人間同士の連帯を謳う詩情あふれる記録文学の傑作。
目次
第1章 辺境の哀しみ
第2章 独りぼっちの火
第3章 戦争はだれのために?
第4章 立ち退き命令
第5章 雨の強制収容所
第6章 オリーブの木に死す
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ぱせり
11
ひたすらに家に帰る物語だったと思う。家は入れ物である。魂を入れる入れ物だ。だからどうしても帰らないではいられなかった。家を失うことは、命を失うことに等しいことだったのだ。短期間に何度も変わる国境線は、極めてブラックなユーモアのよう。まるで、森の奥から響く声なき木霊が語る物語のようだった。厳しく激しく限りなく静かな鎮魂の物語だった。 2015/12/19
こもも
8
テンレの力強い生の物語が、政治や戦争の愚かさを炙り出すかのようだった。いったい国境とは何なのか?テンレは、ただ、その家で幸せに暮らしたいだけなのに。政治も戦争も、本当に愚かだ。こんなにも明白なことなのに、どうして止めることができないのだ?人間は。それでも、テンレの生きざまと、関わる人々の温かい心に、一筋の希望を見い出せると信じたい。2016/02/27
マサ
1
テンレが住んでいるのはアルプスの南麓の村で、アルプスの運び屋、羊飼いの彼にとって国境は邪魔なものでしかないのだろう。第1次大戦の影響で彼の生活はイタリア、オーストリア双方から干渉されることになるのだが、故郷での貧しいけれども平和な生活を望んで山岳地方を彷徨するテンレの姿には権力に媚びない気高さを感じる。読後、静かな感動が尾を引く。2022/01/10
ココマ
0
戦争は誰の為?いつもあおりをくらうのは、どういう人達か?とステルンが聞いてくるようだった。