内容説明
人びとは、富をいかに分け与え、「自分のもの」として独占しているのか?エチオピアの農村社会を舞台に、「所有」という装置が、いかに生成・維持されているのかを緻密に描き出す。「私的所有」という命題への人類学からの挑戦。
目次
序論(所有と分配の人類学;多民族化する農村社会)
第1部 富をめぐる攻防(土地から生み出される富のゆくえ;富を動かす「おそれ」の力;分配の相互作用;所有と分配の力学)
第2部 行為としての所有(土地の「利用」が「所有」をつくる;選ばれる分配関係;せめぎあう所有と分配)
第3部 歴史が生み出す場の力(国家の所有と対峙する;国家の記憶と空間の再構築;歴史の力)
結論(所有を支える力学)
著者等紹介
松村圭一郎[マツムラケイイチロウ]
1975年熊本生まれ。2005年京都大学大学院人間・環境学研究科文化・地域環境学専攻博士後期課程修了。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科助教、博士(人間・環境学)。専攻、文化人類学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アナクマ
31
エチオピアの大家さんにラジオを持っていかれてしまう、鮮やかな導入部。違和感から始める人類学。◉「わたしのものは、いったい誰のものなのだろうか? どこまでわたしのものでありうるのだろうか」自明のものとして近代社会を駆動してきた物語/虚構を省みる面白い博論。◉第一部は、村人の富をめぐるミクロな相互行為について。作物が消費・分配・売却される。お伽話のようにも聞こえるエピソードを重ねつつ、要所に既往文献を援用。権利や規則以外の縛りとして「おそれという感情が、富の平準化と権威の多元性をつなげている」と締めくくる。2020/09/19
アナクマ
29
第二・三部。商店に陳列した石鹸は売り物だが、売れ行き不振で自宅に保管し、妹にせがまれると非商品に変わった。◉著者はこの事例から、多層性のある豊かな場は自然に行為を起こし、モノの意味をずらす。そのコトがまた場を変質させたりもする。という相互的なプロセスを抽出する。「人びとの日常的な行為の蓄積された、さまざまな歴史が織り込まれた空間は、それ自体が人びとの行為を導く」◉当たり前のことのようだけど、著者が提唱する希望としての「ずらし」がここに萌芽している。ルールはあっても揺さぶれる、再構築ができるんだという希望。2020/09/20
soto
3
ずいぶん前に読んだが、印象に残っている本。「所有」という現代社会の最もベースとなっている概念のひとつも、はじめから当たり前に存在していた概念ではないということが、エチオピアでのフィールドワークを通じて実証されていく。細切れな実例を深め、それが持つ意味を大きな結論にもっていくまでの、ストーリーの構成が上手い。2016/11/16
kaikaikorokoro1
1
「わたし」は「わたしのもの」に対する排他的な決定権をもつ…それは1つの主張に過ぎないのではないか。「所有」に関する自分の概念が揺さぶられた。著者と同じような時代に東アフリカにいたことがあって、懐かしく感じた。2017/12/04
ユーザー名
1
ちょうおもしろい。2012/12/11