内容説明
男たちを獣に変える女、寸断された兵士の死体、国家を蝕む伝染病―フロイトの論を手がかりに、日露戦前・戦後の文学空間に取り憑く「不気味なもの」をたどりつつ、国民化の抑圧と民衆の抵抗の力学を鮮やかに剔抉する。国民国家論更新の試み。
目次
第1部 日露戦争と不気味なもの(国民の分身像―泉鏡花「高野聖」における不気味なもの;日露戦争と不気味なもの―櫻井忠温『肉弾』;“銃後”の戦争表象―夏目漱石「趣味の遺伝」;性差別に祟る亡霊―泉鏡花「沼夫人」;近代国家と殉死―乃木希典の「忠君」と武士道;メランコリーを生成する「心臓」―夏目漱石『心』における殉死の問題;検閲のドラマ、ドラマの検閲―芥川龍之介「将軍」における「秩序紊乱」と「風俗壊乱」)
第2部 “大逆”事件と不気味なもの(社会主義という「伝染病」―山県有朋「社会破壊主義論」と大逆事件;「逆徒」の遡及的形成―大逆事件と平出修;神話の「抹殺」、歴史の「怪物」―『基督抹殺論』と「かのやうに」における近代史学;動物のアナキズム―大杉栄の「生の哲学」と芥川龍之介「羅生門」)
著者等紹介
堀井一摩[ホリイカズマ]
1977年、新潟県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻助教。津田塾大学、法政大学非常勤講師。専門は、日本近代文学、批評理論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
67
日露戦争から大逆事件まで、当時の世相と文学を読み解いた一冊。タイトルにもある「不気味なもの」は内容にあまり関わってこない気がするが、個々の分析は教えられること多し。殉死を巡っての明治天皇への忠誠と近代国家としての二律背反や、『基督抹殺論』と「かのやうに」の近代史学と神話との対立等は特に興味深し。蓑田胸喜この時期から気炎を吐いていたのね。ただ人々が平均化される事によって「不気味なもの」が噴出するのは、この時代に限らないと思う。とあれ文学を手掛かりに当時の世相を分析するという手法は好きなので面白く読めました。2021/03/17
mstr_kk
5
悪い本ではありませんが、全体としては得るものが多いわけではありません。「国民国家」と「不気味なもの」をカップリングする全体のテーマ設定が、かなり陳腐なものだといわざるをえないような気がします。序章でフロイト理論の初歩を延々と説明するよりも、自分の主題や方法について、考えを深めながら述べるべきだったのではないでしょうか。個々の論文はわりと読ませるものなので、「不気味なもの」はレトリックの範囲にとどめて、普通に研究をやってくれたほうがよかったと思います。2020/09/26
田口 耀
0
この本がサントリー学芸賞を受賞したそうです 数日前に発表がありました2021/11/03