出版社内容情報
ホルクハイマー、フロム、ベンヤミン、ルカーチ、アドルノ、ハバーマスなど、フランクフルトの「社会研究所」に集った巨星たちの仕事は、西欧近代文明への最もラディカル(根底的)な批判として、フーコーはじめポストモダンの思想にも大きな影響を与え、21世紀の今日まで、歴史の節目節目に噴出し、耳目を集める強靭な生命力をもっています。著者はこのフランクフルト学派研究の第一人者、学派全体の運動史を巨視的に鳥瞰しつつ、上記個々の思想家たちの自己の形成と変容の軌跡、相互の結束と離反の力学が生みだすアクチュアリティを迫力ある文体でとらえます。
フランクフルト学派の知的起源はマルクスとフロイトだと言われている。ホルクハイマーの場合にはショーペンハウアー、アドルノの場合にはニーチェというふうに、さらに個性的特色が加わるが、このことはほぼ一般に通じる学派の基本的傾向といえよう。すでに『啓蒙の弁証法』においても、人間は外的自然への支配を内的自然の抑圧をつうじて購ったのだという認識などに、ひとは後期フロイトの発想の影響を認めることができよう。しかしもともとフランクフルト学派に「フロイト問題」を導入し、三〇年代をつうじてそれを展開する上で主だった役割を果たしたのはフロムであった。…中略…
フランクフルト学派は、社会学の面では、ありのままの事実を価値評価抜きで研究することに満足する実証主義的態度に反対し、正しい社会はいかにあるべきかという理念に照らして、現実を批判することを課題とする「社会の批判的理論」を旗印とする。こういう立場にもとづいて、ファシズム批判や、後の「管理社会」批判が展開されることになるが、その場合にフランクフルト学派は、従来のマルクス主義のように経済学的説明一本槍で済ませるのではなく、進んで心理学をその他の新しい科学を取り入れていこうとする。こういう要求に応えるものとして、マルクスとフロイトを統合しようとしていたフロムがこの学派に迎え入れられたのであろう。この統合の試みは、アドルノたちによっては、進歩の弁証法のいう「歴史哲学」的場面で行われたのに対し、フロムにおいては、精神分析の理論を社会現象の分析に適用するという「社会心理学」的な場面で遂行された。(「フランクフルト学派小史より」)
内容説明
ホルクハイマー、アドルノ、ベンヤミン、ハバーマスらの精神の軌跡。21世紀初頭の時代史的地平に、その動線、変位と破断のアクテュアリティを照らし出す。
目次
フランクフルト学派小史
初期批判理論と精神分析―一九三〇年前後の社会研究所における思想的絵模様
ルカーチ・ベンヤミン・アドルノ―亡命と転換の絵模様
相即と遊離―ベンヤミンにおけるマルクシズムとユダイズム
小人と天使―ベンヤミン『歴史の概念について』の射程
フランクフルト学派と『存在と時間』―ベンヤミンをめぐって
フランクフルト学派と反ユダヤ主義研究―イデオロギーの変質
ヘーゲルとホルクハイマーにおける家族と国家―アンチゴーネとオイディプス
『啓蒙の弁証法』を訳して
『否定弁証法』を読む―アドルノの反体系について
アドルノのフッサール批判―『認識論のメタクリティク』をめぐって
アドルノとフロム
アドルノ文庫を訪ねて
ホルクハイマー再考―ホルクハイマーとは何物だったのか
アドルノ対ハバーマス?
著者等紹介
徳永恂[トクナガマコト]
1929年浦和に生まれる。旧制五高を経て1951年東京大学文学部卒業、北海道大学文学部助教授を経て大阪大学文学部助教授、人間科学部教授。62~64年フンボルト研究員としてドイツ、アドルノに師事。76年イスラエルへ研究留学。92年定年後、大阪国際大学教授
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