出版社内容情報
《内容》 序 文 悪性腫瘍のうち肝細胞癌(以下,肝癌)ほど過去20年間の間に診断・治療の目覚ましい進歩をみたものはないであろう.ちなみに,筆者が肝癌の研究を始めた1970年前後は,肝癌患者の多くは右季肋部痛,あるいは腹部腫瘤を訴え外来を受診し,その平均生存期間は約3カ月であったことなど,隔世の感がある.近年の各種の画像診断の進歩,普及,超音波誘導下生検の導入,さらにはhigh risk groupの注意深い経過観察により,早期の段階の微小な肝癌の診断が可能になったことは周知のことである.わが国ほどではないにしても,同じような傾向はフランス,スペイン,イタリアなどでもみられ,ここ数年間は毎年のようにそれらの国で肝癌の診断,治療に関して国際シンポジウムが開催されるほどになっている.また,昨年のAASLD single topic conferenceの臨床部門では,「肝癌の診断・治療」が取り上げられている.しかし,欧米の多くの国では肝癌の頻度が低いことから一般的な関心は低く,また医療保険制度の違いもあり,わが国のようなきめの細かい診断・治療体制からはほど遠く,肝癌患者の多くは一昔前のわが国の状態にあるといっても過言ではないだろう. 過去20年間における肝癌の臨床,基礎両面での目覚ましい進歩に伴い,多くのことが明らかにされてきた.その一つに,他の臓器の癌と異なり発癌初期の微小な肝癌ほど高分化で異型に乏しく,徐々に分化度を減じながら増殖することがあげられる.さらにその発生には,慢性肝病変,特に肝硬変にみられる過形成結節(腺腫様過形成)からの多段階発癌の様式をとるものが少なくなく,種々の遺伝子の異常を積み重ねながら分化度を減じていくことが示唆されている.しかし,B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスがどのように発癌機序にかかわっているかはいまだ不明であり,多くの研究者がその解明に多大の努力を払っていることは周知のごとくである.また,肝癌は他の臓器の癌と異なりその多くが多中心性発生をきたすことが知られており,そのことが治療上の問題となっている. 肝癌の前癌病変として,肝硬変の腺腫様過形成の意義が論議されているが,その可能性を肯定する見方が多いようである.かつて肝硬変の腺腫様過形成は主として国内での関心事であったが,欧米において肝硬変,あるいは肝癌の治療として肝移植が盛んに行われるようになり,摘出されたレシピエントの肝硬変に腺腫様過形成がしばしば見いだされることから,欧米の肝臓病理の専門家の間でも大きな関心を集めるようになった.それに伴い,腺腫様過形成adenomatous hyperplasiaという用語に対する批判も多くなり,最近,それに替わるものとして“dysplasia nodule”が提唱され,国際的にしばしば用いられるようになった.肝硬変の過形成結節についての用語の混乱は今後もしばらくは続くであろうが,国際的な用語ならびに診断基準の統一の動きも出てきており,近い将来解決されることが期待される. 腫瘍増殖と血管との密接な関係はよく知られているが,そのなかでも肝癌は血管との結びつきが最も強い腫瘍の一つである.すなわち,進行した古典的な肝癌は100%動脈支配であることが古くから知られ,動脈塞栓術が効果的治療法としてはやくから用いられてきた.しかし,早期の段階の微小な高分化な肝癌は動脈性腫瘍血管の発達が十分でなく,その多くは門脈血供給も受けるという二重血行支配の特殊な状態にある.動脈性腫瘍血管の発達が不十分な高分化癌の間は肝癌は緩やかに増殖し,動脈性腫瘍血管の発達に並行して増殖を速めていく.そのため,肝癌はヒトの腫瘍におけるangiogenesisの研究に最も適しており,形態的ならびに分子レベルでin vitro, in vivo両面で多くの研究がなされている. 現在,肝癌の研究は基礎,臨床両面でわが国は世界の最高水準にあることは国外でも広く認識されているが,臨床研究,特に治療成績において厳密な意味でのcontrol studyがなされていないという理由から,内容は別にしてcontrol studyが満たされているスペインやイタリアの臨床家の仕事が評価される傾向にある.現在,臨床研究には多くの制限が伴うため厳密なcontrol studyが困難となってきているが,それらの問題を解決しながら国際的に評価されるデータを出していくことが今後の課題であろう.肝癌発生のhigh risk groupが明らかとなり, 診断・治療も高い水準に達した現在,残された課題として肝癌の発生予防があげられる.すでにインターフェロンによる肝炎ウイルスの除去,肝臓の活動性炎症の抑制,レチノイドによる発癌制御などの試みがなされており,今後さらに発展することが期待される. 《目次》 目 次 1.疫学 1日本における肝癌発生の推移 … 大阪府立成人病センター調査部 津熊 秀明・他…… 1死亡率の動向 1罹患率・数の動向 2要因別の動向 4将来動向ー結びにかえて 6海外の肝癌 … 千葉大学 奥田 邦雄…… 8南アフリカ 8中国 9Fibrolameller Carcinoma 11 2.基礎 13肝細胞癌の他段階発癌と遺伝子異常 … 岡山大学アイソトープ総合センター 湯本 泰弘・他…… 13染色体欠失の蓄積と肝発癌 13肝細胞癌と細胞周期関連遺伝子 15肝癌における遺伝的不安定性 17その他の異常 17肝炎ウイルスと肝発癌基礎的観点 … 東京大学感染症内科 小池 和彦…… 20X遺伝子トランスジェニックマウス 21エンベロープ遺伝子トランスジェニックマウス 21コア遺伝子トランスジェニックマウス 21肝炎ウイルスと肝発癌ー臨床的観点ー … 信州大学第二内科 今井 明彦・他…… 27肝細胞癌におけるウイルス肝炎の関与 27C型ウイルス肝炎の自然経過と肝細胞癌への進展 28B型ウイルス肝炎の自然経過と肝細胞癌への進展 30肝炎の治療と肝癌発生率の変化 31アルコールと肝発癌 … 慶應義塾大学消化器内科 山岸 由幸・他…… 34大酒家肝硬変患者における肝癌の合併頻度 34飲酒習慣と発癌 36ウイルスマーカー陰性アルコール性肝硬変における肝癌合併例の非癌部組織の検討 36大量飲酒家における肝癌の発生機序 36 3.病理 久留米大学病理 中島 収・他 39肝癌の早期形態 39前癌病変 42生検診断 44 4.早期診断のストラテジー 57 … 金沢大学第一内科 小林 健一・他…… 57画像診断 … 公立加賀中央病院放射線科 上田 和彦・他…… 60画像診断による早期存在診断 60画像診断による早期質的診断 63生化学的検査(1)alpha-fetoprotein … 井原市民病院 武田 和久…… 77血清AFPレベル 78AFPグライコフォーム 79流血中におけるAFPのmRNA 83生化学的検査(2)PIVKA-2 … 久留米大学第二内科 田中 正俊・他…… 85血中PIVKA-2の測定と肝細胞癌診断への応用 85PIVKA-2測定法の改良による感度の向上 85高感度PIVKA-2測定による肝細胞癌の診断 85肝硬変患者の経過観察症例におけるPIVKA-2測定の有用性 865.治療のストラテジー 89 … 順天堂大学第二外科 児島 邦明・他…… 89肝細胞癌の治療法とその変遷 89各種治療法の遠隔成績 90肝細胞癌治療法の選択 91経皮的エタノール注入療法(PEIT)を中心とした経皮的局所療法について … 東京大学消化器内科 椎名秀一朗・他…… 93東京大学消化器内科における肝細胞癌治療の現況 93PEITの適応 94PEITの方法 94PEITの成績 94大型肝癌に対するPEITとPMCTの併用 97酢酸注入療法 … 埼玉医科大学第三内科 大西久仁彦…… 98適応 98PAITの手技 98PAIT終了の目安 99副作用,合併症 99病理組織学的検討 100小型肝癌100例でのPAIT後の治療成績 100小型肝癌に対するPAITとPEITの比較 100小型肝癌に対するPAITとTAEの比較 101小型肝癌に対するPAIT,PEIT,TAEの比較のまとめ 101中型肝癌に対するPAITの治療成績 101熱湯局注療法 … 奈良県立医科大学第三内科 福井 博…… 104PHoTの基礎的検討 104PHoTの実際 104症例呈示 106他の治療法との併用 108マイクロ波凝固療法 〈LDR CHAR=… POS=T〉 関西医科大学第三内科 関 寿人・他…… 110概念 110PMCT 110PMCTの手技 110PMCTの合併症と副作用 110PMCTの適応と治療回数 112外科手術 … 東京大学肝胆膵外科・人工臓器移植外科 青木 琢・他…… 115肝切除 115肝移植 118 6.発生予防のストラテジー 山口大学内科学第一 沖田 極・他 121肝発癌のメカニズム 121肝発癌予防のストラテジー 122アポトーシスの誘導 124新たな発癌予防 125その他 126随想:本邦における肝細胞癌の急増について思うこと … 国際肝臓研究所 谷川 久一…… 127和文索引 129欧文索引 131広告一覧 135
内容説明
消化器系癌のなかでは、最も予後が不良とされている膵癌。その治療成績の向上を目指して、第一人者の専門家が膵癌に関する最新の知見をまとめたもの。
目次
1 膵癌取扱い規約(第4版)の要点と問題点
2 膵癌の疫学
3 膵癌の病理
4 画像診断
5 膵癌と腫瘍マーカー
6 膵嚢胞性疾患と癌
7 手術療法
8 化学療法
9 膵癌に対する放射線治療
10 膵癌の集学的治療
11 切除不能例の治療
12 遠隔成績―成績に影響する諸因子
13 手術後の転帰