出版社内容情報
「白樺」派に属し、明治期・大正期に活躍した小説家として名高い有島武郎。その代表作『或る女』は1919年に刊行されたが、その7年後にフランスで前編だけが翻訳され、現在まで唯一のフランスでの有島の翻訳作品として読まれている。なぜ、どのような経緯で有島の作品が遠いフランスの地で翻訳されたのか。
その謎を解き明かすために、2人の翻訳者の来歴を調べ、翻訳されたテキストと原著を詳細に比較・検討して、翻訳に至ったプロセスを描き出す。そして、翻訳者と有島本人との関係性を探り、そのバックグラウンドにあった新渡戸稲造・芹沢光治良・鶴見祐輔・谷川徹三らとの人的なネットワークや共同体の実態を掘り起こす。
有島たちの思想に世代間の関係性がどう影響していたのかも検証して、小説家としてだけでなく、日本の近代化の一翼を担った稀有な人物として有島武郎とその系譜を再評価する野心的な試み。
目次
序 章
第1部 [フランス語版]有島武郎『或る女(前編)』フラマリオン(一九二六年)をめぐって――Arishima Taker?
内容説明
大正期に活躍した小説家・有島武郎の代表作『或る女』は、なぜ・どのような経緯で遠いフランスの地で翻訳されたのか。翻訳者の来歴を調べ、有島本人との関係性やそのバックグラウンドにあった人的なネットワークを浮き彫りにして、日本の近代化の一翼を担った人物として有島武郎を再評価する。
目次
失われた書籍を求めて
第1部 フランス語版 有島武郎『或る女(前篇)』フラマリオン(一九二六年)をめぐって―Arishima Tak´er^o,Cette femme‐l`a,Ernest Flammarion,Paris,1926.(出版に至る経緯と翻訳作品の構造―翻訳の特殊性と精度についての一考察;有島武郎に潜む政治性と外交性―共同翻訳者・好富正臣とアルベール・メーボンの活動から;フランスにおける有島武郎『或る女』の評価―作品への偏見と作家の生き方への興味;翻訳行為における“共同/協働”の可能性―ベルクソンから有島へではなく、有島からベルクソンへ;『或る少女』に表象されるベルクソン的音楽世界―小説への“純粋持続(la dur´ee pure)”概念導入の試み
有島武郎はどのように西洋を翻訳したか―『或る女』にみる文化翻訳)
第2部 有島武郎が形成した共同体(有島武郎・草の葉会と鶴見祐輔・火曜会―恩師・新渡戸稲造の人材育成教育の延長として;有島武郎における文学的精神と社会的良心―作家・芦沢光治良の眼差しから;受け継がれた有島武郎の「“美”を見る「眼」」―哲学者・谷川徹三の草の葉会参加を起点として;有島武郎「クラヽの出家」をめぐる二つの聖地―“軽井沢”で“アッシジ”を描くということ)
第3部 思想伝達の系譜―父から子へ(有島武郎テクストと政治との関連性についての一考察―原敬首相暗殺事件の周縁から;有島武郎における“学習院”からの逃避―自由主義教育の受容と実践の見地から;反抗する日本知識人の一系譜―父・鶴見祐輔と子・俊輔)
有島武郎をめぐる物語
著者等紹介
杉淵洋一[スギブチヨウイチ]
1977年、秋田県生まれ。愛知淑徳大学初年次教育部門講師。専攻は日本近現代文学、比較文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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