出版社内容情報
観音像はいかに平和を象徴する存在として広く認識されるようになったのか。近代以降に美術概念の影響を受け制作されるようになった観音像は、寺院や墓地のように従来から仏像が設置されてきた空間だけではなく、公園などの公共空間にもモニュメントとして建立された。戦前から戦時期には興亜や戦死者慰霊の観音像が多く建立され、大東亜共栄圏を象徴するモニュメントという時代性も背負うことになった。
戦後、戦争死者の慰霊や地域の復興などを目的に、観音像は平和を象徴するモニュメントに姿を変えていき、ランドマークとなる巨大な観音像も作られていった。また、平和観音の寄贈活動、硫黄島やレイテ島に建立されたマリア観音など、ほかの尊格の仏像とは異なるユニークな活動もみられるようになった。
戦争や社会状況、人々の信仰や思いを背景に時代ごとに性格を変えながらも、平和の象徴として共通認識されることでモニュメントとして独自の発展を遂げた観音像の近・現代史を描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Toska
5
非常に面白い。あくまでも信仰の対象であった前近代の観音像が、西洋文化の影響を受け美術品やモニュメントとしての性質を獲得する一方、戦争の時代をくぐり抜けることで新たな宗教性(慰霊と祈り)を身にまとう。興亜観音、忠霊観音、平和観音、マリア観音等々のオールマイティっぷり。本来は性別のない観音が、多くの像で女性(母性)のイメージを持たされていくのも興味深い。論点は多岐にわたり、今後さらに膨らませてほしいテーマである。2022/07/25
in medio tutissimus ibis.
3
近代西洋美術に接した日本人にとって彫刻sculptureとは仏像であり、公共にメッセージを発する標章monumentと近しいものだった。日本美術が発達していく中で、古代の仏像の美が見直されると共に白衣観音の流行があり、観音の像は時代のメッセージを託される存在となった。震災からの復興、護国、そして平和である。それは牽引する者のない同時多発的な現象であり、観光目的の商業主義に堕す事もあったが、宗派や宗教を超えたメッセージを打ち出し外国で受け入れられることに成功しもした。個人的には造形的に自由な大正期のが好き。2022/01/16
takao
2
ふむ2023/01/10
kaz
2
テーマに沿った観音像がピックアップされている可能性はあるが、観音像の優しさには癒される。また、巨大な観音像の建立も、意識してみれば確かに多い。図書館の内容紹介は『興亜、戦争死者慰霊、ランドマーク、地域振興…。時代ごとに性格を変えながらも、平和の象徴として共通認識されることで、モニュメントとして独自の発展を遂げた観音像の近・現代史を描き出す』。 2022/03/13
onepei
2
マッチしたというか、最大公約数的に「観音像」がはまった感じ2021/12/14