内容説明
明治時代にあって三〇代を生きるとは、若さとの決別を促されることだった。次々と出産した晶子は身体的にも疲労を重ね、一家の経済的な支柱であり続けることはさらに過酷だったと想像される。「若き日は尽きんとぞする」の予感は、平らかに続く野が突然海へとなだれ込んでいく映像として描かれ、なすすべなく委ねるしかない宿命への不安と悲哀が漂う。晶子の卓越した比喩の力が説得力を感じさせる。
目次
第1章―恋1 鉄幹との出逢いと恋、上京へ(二十世紀初頭の空気が醸成したもの)
第2章―恋2 夫婦愛の変容、現実との対峙(登美子との再会と死・「明星」廃刊、その先へ)
第3章 十一人の子の母として(二十代から四十代まで続いた出産と育児)
第4章 郷里・堺と両親や親族を偲ぶ(和菓子舗の出自・郷愁と葛藤)
第5章 古典への親炙と京都愛(現代語訳『新新訳源氏物語』へ至る道)
第6章 社会を見る眼差し、都市生活者の思い(日露戦争・大逆事件・女性論・関東大震災)
第7章 人生の深みを生きるということ(家計を賄う柱として・中年の憂い・老いへの予感)
第8章 心を映し出す季節と自然(草木虫魚への愛・写生とは異なる心情の表現)
第9章 西洋との遭遇、旅と思索(パリ滞在・西洋体験から触発されたもの)
第10章 中国大陸の旅、日本の旅(昭和期のアジアへの眼差しとアイデンティティ)
第11章 敬愛する人々への挽歌(山川登美子・石川啄木・上田敏・森〓外・有島武郎)
第12章 寛の死、晩年を生きる(夫の死後に残された時間を見詰める・太平洋戦争勃発)
解説 ありとある悲みごとの味の~恋の歌人・晶子の歌と人生
著者等紹介
松平盟子[マツダイラメイコ]
歌人、歌誌「プチ★モンド」編集発行人。愛知県生まれ。南山大学国語国文学科卒。「帆を張る父のやうに」により角川短歌賞。歌集に『プラチナ・ブルース』(河野愛子賞)『カフェの木椅子が軋むまま』『天の砂』『愛の方舟』など。著書に『母の愛 与謝野晶子の童話』『パリを抱きしめる』『書き込み式「百人一首」練習帳』など。古典芸能関連の著書に『文楽にアクセス』など。与謝野晶子のパリ滞在とその文学研究のため在外研究(1998~99年・国際交流基金フェローシップ・パリ第7大学)。現代歌人協会、日本文藝家協会会員。国際啄木学会理事。明星研究会所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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