感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちぇけら
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十六夜の鼓膜に鳴りしボブディラン。薄くひろがった雲のした、膝を抱えて雨を聴く。春の雨より秋の雨のほうが重いようです。枯れはじめた葉桜をみながら、なにやら咀嚼をしていると、むかしむかしにあなたと食べた、玉蜀黍の甘さがよみがえった。わたしは別にうれしくもかなしくもなかった。涼しさ。もう燃えたぎることがなくなった心がからからと鳴っていた。燃えつきていた。過ぎ去っていた。ことばだけがすべてを知っているように、そこに立っていた。もうなくことはできないんだな。感じて、高くはない山の麓にすべてを埋めた。雨はやんでいた。2019/10/02
pirokichi
17
大木あまりさんの第五句集。2002年から2010年までの377句。好きな句はたくさんあるが特に〈冬草や夢見るために世を去らん〉〈星涼しもの書くときも病むときも〉には、ハッとさせられた。「涼やかに生きたい」っていいな。〈干草は脱ぎたるもののごとぬくし〉〈かりそめの踊いつしかひたむきに〉〈花の種棺に入るる約束を〉〈願はくは滴りこそを死水に〉〈枯るるとは縮むこと音たつること〉〈雛よりもさびしき顔と言はれけり〉〈死ぬまでは人それよりは花びらに〉〈逝く猫に小さきハンカチもたせやる〉第62回読売文学賞受賞。2021/08/06
Cell 44
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「野遊びのやうにみんなで空を見て」「陽炎を来て馬の尾の乱れなく」「握りつぶすならその蝉殻を下さい」「なめくぢの身の透くほどの豪雨かな」「鯛焼の袋が匂ふ夜汽車かな」「水餅の水をゆらして思ふこと」「昭和とは柵を出られぬ雪の馬」「訣別は月のひかりがあればよい」「とほくまで行く霜月の切符かな」「冬草や夢みるために世を去らむ」ふっと句の韻律の奥へ連れ去られるような感覚。星空を眺めているうちに、ふっとそちらへ行ってしまっているような。2015/03/20