内容説明
徳川家康と石田三成が関ヶ原で雌雄を決するころ、イギリス・ロンドンはペストの大流行に襲われていた。「ロミオとジュリエット」「ハムレット」「リア王」「マクベス」…不朽の名作がその中で生まれた。死の不安、生への妄執、一筋縄にはいかぬ人生。劇作家が見つめ、問いかけようとしたものは何か。シェイクスピアの諸作品に分け入って感得しつつ、思いはおのずとコロナ・パンデミックのいまに向かう。
目次
第1章 シェイクスピアはペストをどう描いたか―プロローグに代えて
第2章 五つの作品を読む(『ジュリアス・シーザー』;『マクベス』;『リア王』;『ハムレット』;『夏の夜の夢』)
第3章 危機の時代―シェイクスピアの作品が現代に問うもの
著者等紹介
川上重人[カワカミシゲト]
本名・前田登紀雄。1950年福島県猪苗代町生まれ。日本シェイクスピア協会会員。東京私大教連(東京地区私立大学教職員組合連合)書記長、副委員長をはじめ日本私大教連の役員を歴任。35年間にわたり私立大学教職員組合活動に従事する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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パトラッシュ
81
シェイクスピア作品にペストは登場しないので、当時はありふれた病だったとは知らなかった。おそらく親戚知人にも犠牲者はいただろうし、ロンドンから逃げねばならなかった。いつ死ぬかわからぬ時代にペストを直接出さずとも、疫病に劣らぬ人の弱さ愚かさ残酷さを描き出したのではとの観点から芝居を分析していく。アントニーの演説、マクベス夫人やリア王の悲嘆、ハムレットの復讐の炎などは生への意欲の発露であり、生きたいからこその愚行や欲望こそ人の本性と見ていたのか。そうでなくては「人間こそ自然の傑作」との台詞は書けなかっただろう。2021/09/20
フム
33
シェイクスピアはその生涯で六度のペストの流行を体験していたと知って驚いた。読書会でシェイクスピアの戯曲を読み続けているが、作品の中で直截的にペストは表現されていない。誰彼となく襲いかかって命を奪われるペストに対する人々の不安や恐怖は、現在の比ではなかったことだろう。そんな深刻な状況だからこそ、疾病の波が弱まって開演される劇場にやって来る観客に、リアリズムではなく、苦悩をやわらげ笑いや力を与えるような舞台を観てもらいたいと考えたのではないか。そんな時代背景を知った上で、再び作品を読むのが楽しみだ。2021/09/04