出版社内容情報
本書は、幕末の不平等条約によって開港された港湾である条約港において、来日欧米人の間で流布した俗言「日本は、花に香り、鳥に歌、男に道義心、女に貞節のない国である」に注目し、日本女性および日本人についてのステレオタイプを拡散させたこの流言飛語の由来、そして、この俗言に内包されている欧米人の日本観の顕在化と言える「ゲイシャ」イメージの意味を考察している。これらに費やされた言説を史的に辿るにあたっては、根拠のない俗言を生み出すことになった史資料を収集検証し、客観的に「資料に語らせる」という実証的な方法を用いることとした。また「ゲイシャ」イメージの考察においては、その拡散の過程が視覚化されている図版や写真を用い、欧米人の視線を気にしながら西洋に倣い近代化を図った明治日本において、このイメージが、いかに欧米人の日本観と日本人の自国意識の相克を浮き彫りにするものであったかを明らかにした。しかしながら、史的事実の確認を辿る歴史学の方法に厳密に拘ることはせず、この俗言のような独断と偏見を含んだ、恣意的ともいえる言説や出来事について、しっかりと検証を行うことにした。それは「そのような噂や流言飛語が存在した」という事実からも、その文化総体の成立背景がより良く認められると考えたからである。一般には、こうした論を立てて行く場合、自らの使命としてキリスト教による文明化を第一に考えるヨーロッパ中心主義や帝国主義、植民地主義、そしてイングリッシュネス、ジャポニスムなどの様々な思潮との関連を考察する社会学的な視点が不可欠ではあるものの、この分野にはあえて深入りせず、開港交渉の記録、欧米使節団や外交官の報告書、日本の海外使節団や万国博覧会関係者の記録、新聞や雑誌などの定期刊行物の記事、世界漫遊家たちの残した日本見聞記、小説や演劇台本等、様々な分野における関連資料を渉猟することで、本書を民衆文化論として成り立たせるよう、より総体的にこうした事象を論じることにした。【図版多数収載】
内容説明
欧米と日本、洋の東西の対立構造をめぐる比較文明論。「ゲイシャ」が「日本女性」さらには「日本」を表象することになる経緯に焦点をあて、開国から不平等条約の解消に至るまでの日本の文明化の過程と欧米と日本の交流の足跡を辿る。
目次
序章 「花の国・日本」の文明と非文明
第一章 ゆがんだ「ゲイシャ」イメージの苗床
第二章 ジャポニスムと「日本女性」への関心
第三章 「ゲイシャ」と「ムスメ」の国・日本
第四章 世界に躍り出た「ゲイシャ」たち
終章 日本の近代化と「ゲイシャ」イメージ
著者等紹介
飯田操[イイダミサオ]
1946年兵庫県生まれ。広島大学名誉教授。大阪教育大学大学院教育学研究科(英語教育専攻)修了。博士(学術)取得(広島大学)。広島大学大学院総合科学研究科教授(平成21年3月退職)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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