内容説明
本書では、「役者絵」の検証、浮世絵の海外流出の過程、クルト『写楽』研究、「蔦屋重三郎筆禍事件(寛政三年)」の刑罰の究明、浮世絵類考系写本資料に残る「写楽」の記録の解読、寛政六年の歌舞伎界の特殊な状況分析を行い、「写楽」の素姓と来歴、登場と理由、彼を絵師として採用した人物をつきとめ、そして雲母摺大首絵の製作の目的、その枚数と描かれた役者名、さらにそれ以外の写楽作品等を徹底的に考証する。
目次
第1章 写楽作品検証試論
第2章 クルト前史試論―浮世絵の海外流出、価値転換過程の考察
第3章 ユリウス・クルトの『写楽』と日本の写楽研究
第4章 蔦屋重三郎の一考察―寛政三年筆禍事件の刑罰について
第5章 浮世絵類考系写本に残る写楽の記録
第6章 東洲斎写楽の素姓
第7章 写楽探索
第8章 東洲斎写楽考証
著者等紹介
中嶋修[ナカシマオサム]
1948年新潟県村上市生まれ。2000年より写楽研究を始める。2002年、浮世絵類考の研究で太田記念美術館の研究助成を受ける(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Berlin1888
2
東洲斎写楽関連の文献をほとんど押さえて、妥協のない考証をこれでもかと加えたスゴイ本。「写楽の研究」というよりも「写楽研究史の研究」といった方が正確か。同時代の証言はもちろん、明治、大正の評判に海外での人気までも幅広くカバー。従来の常識もずいぶん怪しいことばかり。いまだに写楽を「歴史の謎」にしてしまい、興味本位の探偵ごっこで満足している連中に著者の爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。難をいえば分厚くてヘビーでディープで、全ページにわたってガチで詳細な考証が続くこと。だって、学術研究はこうやって進めるものなのだ。2018/04/20
紫
1
東洲斎写楽検証の暫定(2012年時点)決定版。同時代から現代にいたるまで、現在のところ判明している、あらゆる写楽史料を総点検。膨大な史料の成り立ちから情報の信憑性までを論じた上での、微に入り細を穿つような徹底検証はただただ頭が下がるばかり。現存作品の図版を検討することで、幕末明治になってからの複製や贋作がかなり混じっていると結論づけるなど、いままでの写楽論議の前提を片っ端から叩き潰してまわるような検証は実にスリリング。検証ごっこでなく本当に写楽の実態に関心をお持ちなら、一人一冊、必携書であります。星5つ。2017/11/13