出版社内容情報
古い百人一首の箱から、「来ぬ人をまつほの浦の夕なぎに」のふだが消えてしまった。対となる「やくやもしおの身もこがれつつ」のふだが、「来ぬ人を」のところへとお祈りすると、なんと貴族の女の子の姿になって、百人一首成立の時代にタイムスリップ! そこで出会ったのは、百人一首をえらんだ、あの藤原定家と、その孫の為氏だった。定家に弟子入りし、「もしお」と呼ばれることになった女の子は、「来ぬ人を」をさがしながら、のちに百人一首とよばれることになる色紙が書かれるその空間に立会い、王朝文化のかがやきをとどめようとした定家の思いにふれていく。いつしか為氏との間に淡い思いもめばえて……?
過去と現代を行き来するドキドキの展開と軽やかな筆致で、和歌、物語、歌仙絵といった古典文化、貴族から武家の世へとうつりゆく転換期の歴史にも興味と親しみが湧く。歴史をたくみに織り込んだ児童文学で知られる著者の新境地となる、百人一首がぐっと面白くなる古典文学ファンタジー!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
真理そら
53
村の資料館に保管されている古い百人一首から定家の歌「来ぬ人をまつほの浦の夕凪に」の絵札がどこかに行ってしまった。残された下の句の札「やくやもしほの身もこかれつつ」は資料館の凪さんを困らせないように「こぬ人を」を連れ戻そうと強く願っていたら、平安京に女人の姿で舞い落ちてしまった。この女人「もしお」が定家の別邸で定家や定家の孫・為氏と交流を深めながら「こぬ人を」を探す物語。意表をつく設定だが百人一首の成立過程やもしおと為氏の恋の進展などが楽しい。鎌倉時代の京と鎌倉の関係なども分かり易く説明されている。2023/05/05
anne@灯れ松明の火
24
ゆっくり追っかけ中の久保田さん。ネットご紹介で気になっていたところ、遠い方の新着棚で。今回は設定がぶっ飛んでいる。表紙の女の子は主人公なのだが、本当は百人一首のカルタ! 読み札の「こぬひとを」がいなくなり、探しに行くことになった取り札「やくやもしおの」。不思議な導きで着いたのは鎌倉時代。藤原定家と孫と出会った時、なぜか人間の女の子になっていたというから驚く。突拍子もないけれど、面白くて、引き込まれる。この本を読んで、百人一首や古典文学に興味を持つ子も出るはず。冬休みの読書にピッタリ!2022/12/29
ときわ
12
この百人一首の札たちは付喪神になったのかな。札だったはずなのにタイムスリップしたらもしおは人間の女の子になってた!とんでもない設定なのに流れでするっと受け入れることが出来た。百人一首はもちろん知ってる。市民講座の勉強会も参加した。日本史も一応やった。でも百人一首と歴史を一緒に考えたことあったかなあ。この本を読んでいて、百人一首が誕生したときは平安文化の残り香のような時代だったのかもしれないと思った。日本の歴史を歌で後世に伝えようとした(のかもしれない)って解釈は素敵だ。すごく面白かった。2023/04/26
あおい
10
百人一首のカルタの箱から1枚だけ札が消えた。消えた上の句の札を探しに下の句の札が過去にタイムスリップ。少女に姿を変えた札は無事に対の札を見つけ元の世界に帰ることができるのか?百人一首が作られた当時の文化を学びつつ楽しく読める古典ファンタジー。2023/09/10
izw
7
百人一首の一枚、藤原定家の「こぬ人をまつほの浦の夕なぎにやくやもしほのみもこかれつつ」を巡る物語。村の資料館に保管されている古くてめずらしいかるたから上の句が消えた。学芸員が見つかるように神社で祈っていると、下の句のふだが、定家の時代にタイムトリップし、女の子になる。上の句もこの時代に来て、人になっているに違いないと探す。設定は無茶ぶりだが、百人一首の成り立ちも描かれている。時代考証がしっかりしていて、楽しみながら、鎌倉時代に入った頃で、平安貴族から武士の時代への移り変わる、定家の時代を知ることができる。2024/12/09