出版社内容情報
地球環境学は50年の歴史をもつ。これまでは自然科学を中心にさまざまな分野から,地球環境の危機が指摘されてきた(地球温暖化や水環境,砂漠化,生物多様性など)。今日は,単に危機が提唱されるだけでなく,さまざまな分野の定量的な分析をもとに「プラネタリー・バウンダリー」越えの問題が,毎年分野別に図として国際社会で提示され,早急の解決が求められる重要課題となっている。その結果,現在の地球環境学は,自然科学だけでなく経済学や法学,公共政策学などの社会科学のほか,哲学や倫理学など人文学に及ぶ進化をとげている。
多くの分野が関係する新たな地球環境学について,社会科学・人文科学の多分野と地球環境学との関連を文理横断の視点から俯瞰してコンパクトにまとめた本が,シリーズ「未来社会をデザインする」である。
「包摂」(Inclusion)と「正義」(Justice)の観点から考察したI巻につづき,II巻では,人間側の「認識」(Cognition)と「行動」(Behavior)をテーマに,課題を洗い出す。分野別に地球環境学との関連を述べた全10章を通読すると,以下のキーワードについて,地球環境学との関連が深く理解でき,文理横断の観点からの課題解決の方向性がみえてくる。
[II巻で扱う主なキーワード]
集団の世界観,利己性と利他性,リスク心理学,行動経済学,ESG投資,ナッジ,災害トラウマ支援,予防原則,ナラティブ,AI社会,直感的判断と論理的判断,短期的視点と長期的視点,同調性と独自性,人間主審主義と環境原理主義,人と自然の分離主義と非分離主義,IPBES,Six Americans, Five Japanese, OECDのBASICフレーム,など。
【目次】
シリーズ未来社会をデザインする 刊行にむけて
まえがき
第1章 価値認識と地球環境
【地球環境学×価値・認識論】(谷口真人)
1.1 社会変容への認識と行動
1.2 認識と行動を形作る基礎的価値と世界観
1.3 行動に至る動機
1.4 動機から行動への過程
1.5 コミュニケーション
1.6 認識・動機・行動のつながりと政策・制度
1.7 まとめ
第2章 価値観の多様性と社会システム変容に向けた課題
【地球環境学×経済学】(村上佳世)
2.1 求められる社会システムの変容
2.2 社会システム変容を目指す2つのアプローチ
2.3 多様な価値観を紐解く
2.4 社会システム変容に向けた課題
第3章 環境配慮型のライフスタイルに向けた認識と行動の変容
【地球環境学×環境配慮行動】(青木えり)
3.1 環境配慮行動の特徴
3.2 環境配慮行動と市民の認識,態度行動モデル
3.3 持続可能なライフスタイルにむけた行動変容
3.4 持続可能な私たちの暮らしと地球環境学
第4章 日本の伝統知「柿渋」による脱プラスチックへ
―利用価値介入を取り入れたSTEAM教育プログラムデザイン
【地球環境学×生命科学】(加納 圭)
4.1 柿渋普及による脱プラスチックへ
4.2 柿渋とプラスチック
4.3 利用価値介入
4.4 利用価値介入を取り入れたSTEAM教育プログラムデザイン
第5章 人と自然の関わり
―自然共生社会の実現に果たす役割
【地球環境学×生態学】(曽我昌史)
5.1 「自然との関わり」とは
5.2 自然との関わりの現状
5.3 自然との関わりと健康の関係
5.4 自然との関わりと自然環境保全の関係
5.5 自然との関わりの再生にむけて
第6章 ケアシステムの社会実装
【地球環境学×社会福祉学】(大岡由佳)
6.1 被災する人々の健康状態を決定するもの
6.2 自然災害における人々のトラウマ
6.3 トラウマへの実際のサポート
6.4 トラウマ学術分野から考える気候変動
6.5 気候変動に対処し対応するための方法
6.5 「認識と行動の地球環境学」としての観点から
第7章 規範と制度―予防原則を例に
【地球環境学×法学】(一原雅子)
7.1 地球環境の変化と法
7.2 環境法にみる実践:総論
7.3 環境法にみる実践:予防原則を例に
7.4 検討:認識と行動の地球環境学としての観点から
7.5 これからの在るべき規範と制度とは
第8章 脳と環境との相互作用による社会性の形成
【地球環境学×脳科学】(田中大貴・松田哲也)
8.1 こころの働きをシステムとして見る
8.2