内容説明
漱石自身の努力と戦略、置かれた創作環境、そして当時の文壇や社会の状況。様々な条件が重なり今日の「漱石像」はつくられていった。その過程を「職業作家以前」、「専業作家時代」、「死後の名声」の三期に分けて分析し、他の作家と較べて漱石の何が特異であったか、いかにして卓越的存在と成り得たのか、「帝国大学」との関わりをたよりにその要因を追究する。
目次
日本近代文学の象徴「漱石」
第1部 漱石の文壇登場とその認知のされ方(英国留学と神経衰弱―漱石神話の起源;ホトヽギス派の俳人作家;自然主義陣営との偶発的対立)
第2部 帝国大学出身者だけを描く作家(『野分』白井道也の造形―帝大出身の文学者;『三四郎』に描かれる学歴貴族の生態;新聞小説家漱石の担うべき役割―書き換えられた『行人』)
第3部 漱石死後の神話生成(漱石神話の生成と発展―小宮豊隆『夏目漱石』を中心に;漱石評価の確立期―近代文壇批判から「作品論」の成立まで)
著者等紹介
大山英樹[オオヤマヒデキ]
1980年生まれ。成城大学文芸学部国文学科卒。青山学院大学大学院文学研究科日本文学・日本語専攻博士前期課程修了。青山学院大学大学院総合文化政策学研究科総合文化政策学専攻博士課程修了。博士(学術)。専門は日本近代文学。現在、青山学院大学非常勤講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Happy Like a Honeybee
3
国民作家と言える漱石の研究本。 知識階級に支持されつつ、一般大衆にも理解可能な内容が作品の魅力と筆者は説く。 同時代の森鴎外など、現代ではあまり読まれていない。 十人十色の解釈が出来るからこそ、時代を問わず普遍的な価値を持つのだろう。 三四郎の作中で轢死女性や子どもの葬儀など違和感があったが、立身出世しない貴族階級を暗に意味していたのか。2020/07/08
澄川石狩掾
1
本書は副題にもある通り「「漱石神話」の生成と発展のメカニズム」の解明を試みたものであるが、漱石に対して同情的な論調なのはどうなのだろうかと思った。例えば、正宗白鳥の漱石への批判を「帝国大学に対する劣等感が生んだ虚像であろう」と述べているように、白鳥ら漱石を批判した自然主義文学の人々に対して手厳しいが、そのような厳しさは漱石に対しては鈍ってしまう。漱石を相対化する視点が欠けているように感じた。2021/12/02