内容説明
第四十六回直木賞受賞作―本書は、芥川賞の純文学と、直木賞の大衆文学の壁を取り払った記念すべき作品と評価の高い名作。松本清張は「巧緻な文章で抒情を盛り上げた」とし、大仏次郎は「素直にヒューマンな作品」とたたえた。戦記文学の粋。
著者等紹介
伊藤桂一[イトウケイイチ]
大正6年、三重県生まれ。昭和13年より終戦まで三度にわたる満7年の軍隊勤務。上海で終戦。陸軍伍長。戦後十数年、出版社の編集部勤務。昭和37年、「蛍の河」で第46回直木賞、昭和58年、「静かなノモンハン」で第34回芸術選奨文部大臣賞及び第18回吉川英治文学賞を受賞。昭和60年、紫綬褒章受章。芸術院会員
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感想・レビュー
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遥かなる想い
160
第46回(1961年)直木賞。 ひどく叙情的な戦旅 短編集である。 一兵士として 関わった戦争の日々の断片を 精緻に描く。 表題作の他に 芥川賞候補作三作も 収められており、戦争文学でありながら、 清冽な叙情が 評価されたのかもしれない。 2018/08/28
きのこ
14
直木賞81/188 著者の2度に渡る兵役のうち、厳しい北支那駐留の体験に基づいた作品3作が芥川賞候補となり、治安の良好な南京・上海での体験に基づいた4作のうち「蛍の河」が見事、直木賞を受賞。個人的には「廟」や「雲と植物の世界」が好きかな。それにしても凄いですね。大衆文学と純文学との隔たりを多少なり縮めた功労者ではないでしょうか。秀作ぞろいでした。2018/12/27
阿呆った(旧・ことうら)
1
【第46回(昭和36年度下半期) 直木賞受賞】戦争作品は、物理的な破壊などが強調されがちですが、兵士の心情や、日常生活などが描かれていてよかった。2016/10/28
hisayparrish
0
第46回直木賞作品の表題作ほか水の上、氾濫、鵜を撃つ、黄土の記憶、廟、黄土の牡丹、雲と植物の世界を収録。詩人、歌人でもあるだけに、戦記物ではあるが、風景描写、心象描写の奥が深く、表現、用語に圧倒される。芥川賞の候補に3度なるも受賞がならなかったが、直木賞より芥川賞にふさわしいように感じた。内容も戦記故の重さがあるが、どれもずしりと心に響く。今はなかなか読む人はいないのだろうが、日本人として忘れてはならないことが、声高の主張を伴わない、小説として語られ、それだけに胸に残る。2021/04/14