内容説明
いま時代がアレントを呼んでいる!スクールカースト、就活難民、つながり、空気…すべてが不確かな混迷の時代。私たちは逃れようもなく難民であり市民なのだ。不屈の女性思想家が語る「新しい公共」。
目次
序章 思想的事件としての『人間の条件』
第1章 忘却の穴
第2章 退きこもりの政治性―人間の思考活動
第3章 行為者の自己開示―人間の政治活動
第4章 社会的なるもの
第5章 出生
終章 難民と市民の間で
著者等紹介
小玉重夫[コダマシゲオ]
1960年生まれ。東京大学法学部政治コース卒業、同大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。慶應義塾大学教職課程センター助教授、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授などを経て、東京大学大学院教育学研究科教授。専門は、教育哲学、アメリカ教育思想、戦後日本の教育思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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おさむ
26
東大の授業を受けているみたいに難解でした笑。近年、再評価されて著作も復刊が相次ぐ思想家、アーレント。彼女の名著「人間の条件」および「全体主義の起原」の読み解き本。政治家だけに任せるのではなく、市民が直接政治に参加すべきだと主張する。理想はギリシアのポリス。全体主義は、一部の人たち(例えばホロコースト)の存在を歴史から抹消してしまう「忘却の穴」を構造的に持つ。それを克服するには、存在を記憶にとどめておくための公共的な記憶の空間が求められる。こんなまとめだと、落第かなあ‥‥笑。2018/07/21
さえきかずひこ
8
第3章、第4章を興味深く読んだ。公共性という概念の位置付けの変遷は知らなかったのでためになった。アレント『人間の条件』における社会的なものの勃興と公的領域の消失についての考察は、社会的なものが人々を均一化し、その複数性を破壊し、全体主義的な傾向を生んでいく点を明らかにしているようだ。全体主義は近代特有の問題なのだろうが、そのような大きなテーマが、現代日本社会の教育問題(子供のいじめ問題やスクールカーストなど)に結び付け論じられている点も、小さなファシズムの危機を身近に感じられて良い構成である。2017/12/19
Mealla0v0
2
『人間の条件』の前提として『全体主義の起源』を位置づけていることは興味深く思うし、フーコー、アガンベンを念頭においた議論の展開も共感する部分もあるのだが、そこにやや強引というか唐突に教育問題を絡めてくるやり方については違和感がある。それ自体、独立した章に割いてくれればよかったのかもしれないが。とは言え、オーソドックスなアレント理解としては非常にわかりやすく、参考になる部分もあった。「出生natality」については、それこそ、統治性の話題に関わってくる部分だろうし、この点は個人的にも詳しく検討したい。2017/11/29
有智 麻耶
2
読書会で『人間の条件』を読み進めており、理解の助けとするために読んだ。小玉氏の著作は『シティズンシップの教育思想』を何度も読んでおり、そこに現れているアレントの思想をより詳しく説明したという感じ。特に、公的領域と私的領域の区別が消滅し、社会的領域が拡大してきたあたりの解説はかなり分かりやすかった。アレントの思想、特に教育思想の保守性を取り上げ、シティズンシップ教育への接続を批判的に検討したものとしては、石田雅樹「ハンナ・アーレントにおける「政治」と「教育」:シティズンシップ教育の可能性と不可能性」を参照。2016/09/03
toshiro1912
2
小玉氏著書再読シリーズ第三段が終了。再読、と言っても前回読んだのはかなり最近なのだが。相変わらず面白く読めたが、公的な世界へ子供を導き入れる存在としての教師のイメージがいまだよく掴めないので、今後の課題としたい。2015/10/19