内容説明
本書はオックスフォード大学出版局発行、ケイス・トマスが企画・総編集をした伝記小冊子シリーズ「過去の重要人物たち」の一冊である。本書はいわゆる偉人伝の域を越えて、北方ルネサンス期の思想史に関する、高いレヴェルの書物であり、最近の研究成果を取り入れた学問的伝記であり、著者によって選びぬかれたエラスムスのテクストの引用を通して当時の思想的息吹に接することができるように書かれている。著者はこれまでのものとは違った、新鮮で、納得がいくエラスムスのイメージを本書の中で描いている。それは混迷していた当時の教会の中でキリスト教信仰生活の刷新の根源を聖書と教父たちの伝統に求め、新しい時代を受け入れるキリスト教的教養を開花させようとする「真面目な司祭」の姿である。このようなエラスムスの側面はいまがかつて描かれたことはなかった。こうして、著者が描いたエラスムスは現代のキリスト者知識人のモデルなのである。本書は特にルター登場後、ある観点から表面的に見ると保守的だと誤解されるようなエラスムスの側面に触れている。
目次
1 文法家への道
2 教育的使命
3 “キリストの宮居を飾る”
4 キリストの哲学
5 ルターの問題
6 『痴愚神礼讃』