脳損傷後の機能回復 - 治療・訓練の理論的根拠

脳損傷後の機能回復 - 治療・訓練の理論的根拠

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  • サイズ B6判/ページ数 354p/高さ 21cm
  • 商品コード 9784763910158
  • NDC分類 493.73
  • Cコード C3047

出版社内容情報

《内容》  本書は,脳損傷を受けた患者に行う治療手技の開発に対する理論的根拠として,可塑性を説明する多くの可能因子を種々実際例をあげて論じたものであって,ぜひ訳出して日本の脳卒中や脳損傷患者のリハビリテーションにあたる人々に紹介したいと思い立ったのであるが,訳者の怠慢と多忙のために,やっとここに上梓することができるに至ったのである.  本書の中で諸家のいっている点を要約すると,Moore は,神経系には階層別的(hierarchical)な[archi(原始)-paleo(古)-neo(新)]といった組織立てが残っていること,従って新しい中枢が損傷された時にはより古い系に対するリハビリテーションをより重視すべきこと,また中枢神経系の一側半身支配機構より両側半身支配の機構に力点をおくべきであり,片側脳損傷によって生体の両側半身とも影響を蒙るものであり,そのために3次元的な自己,ならびに周囲環境に自己を関係づける能力に影響,欠如が起ることを強調している.いわゆる「良い側」に起った変化は,脳損傷を受けた患者を診察する時に見落されることが多いが,交連神経線維に広範な断絶が起るからであるとしている.さらに Moore は,胎児の発育の際の頭側から尾側に向かう頭-尾方向発育順序よりも,まず頸髄部分から発達が始まる事実,すなわち頸-頭-尾側方向発育順序を重視する重要性を説き,この法則がリハビリテーションの治療方法の選択にあたっても妥当し,初期段階ではまず頸部に重点をおくべきことを強調している.さらに Moore は,脳が機能するうえに知覚系がいかに重要であるかを強調し,知覚経路,運動経路というような区別をしてすませるべきでなく,統合して働く一体のものとしてとらえるべきであると強調し,知覚系がより重要な役割を演じている点,「運動系は知覚系に使われる召し使いに過ぎない」ことを認識すべきであるとしている.  Wall は中枢神経損傷後に起る機能回復に関係ある因子のうち,以前より存在していたが,機能的には「潜在的」であった伝導路が中枢神経損傷後にシナプス伝導効率の変化改善により「顕在化」し,機能を発揮するようになる因子を重要視している.  Glees は,大脳片側半球摘除術施行後の患者が驚くべき代償能力を示し,片側だけの半球しか持たない患者が,体移動や全身の知覚感知においても,また周囲環境との社会的対応においても正常に近いほど機能を発揮する実例を示しており,その原因は各半球の両側支配性にあることを強調している.そうして知覚情報を運動皮質に伝えるのに役立つ可能性のある神経路の存在を強調し,脳に損傷を受けた後は,代わりの伝導路を使う訓練の必要性を強調している.  Rosenzweig は,治療方法の開発に最も重要な所見として変化に富む刺激の多い環境のリハビリテーション効果に関する意義を強調している.  Evarts は,基底核の損傷が内発的な運動に及ぼす影響に注目し,そのような損傷に対し外部からの知覚による誘導によって代償する訓練の可能性を指摘している.彼は特定の運動に対する比較的小さな皮質領域(皮質焦点)に損傷が加わった後に起る機能回復の可能性として,正常の動物では,焦点の周辺にいわば縁取り部分的に存在するが焦点に損傷が加わった時,予備軍としていつでも活動に参加し,皮質部分から新しい連絡ができる可能性をあげており,また小脳が入力と出力の関係を調節するうえで役割を演じ,脳損傷の後に起る運動の再組織立てに非常に重要な働きを行っていることを強調している.  Brailowsky は,薬物使用の効果に関する因子を論じ,中枢神経損傷後に薬物と回復促進の目的で使用した1例について検討しているが,現段階では有効性の可能性を持つ薬理学的物質の研究の裏づけを示すにとどまっている.  Bach-y-Rita は脳の可塑性についての臨床的証拠のいくつかと,いくつかの鍵となるような実験を示し,脳卒中後すばらしい回復を示した2例を例示し,その1例については剖検所見も示して回復に導く神経メカニズムと要因について論じ,強力な家庭内治療プログラムの励行の効果を強調し,心身相互作用,動機づけ(やる気を起させること)の重要性を強調し,最終的に到達しきらない回復の最後の10ないし20%を完全に得ることの難しさと,通常以上の過剰とも思われる努力を払うか否かが,能力障害を残すか完全回復するかの差の元になると述べている.さらにいかに科学的に十分基礎づけられたプログラムであっても,それに要するコストを考慮に入れなければ実用的でありえないこともありうる点も強調し,現実的に効果のある環境や治療手段を生み出す工夫,リハビリテーションの効果がプラトーに達した段階に陥った患者に対する対応も論じている.私自身は,リハビリテーション医療の金科玉条である“He must cure himself that is the essential doctrine of rihabilitation medicine”(患者自身が自分自身を治そうとすること,ここにリハビリテーション医学の基本的原則がある)という言葉をつけくわえたい.  中枢神経系の可塑性なるテーマは,まさに今日の神経生理学者の興味の中心であり,その知見も続々増えている.本書には,故 塚原仲晃教授の側芽形成現象に関する業績や,伝達物質の増量,伝達効率の増大ほか日進月歩の新知見を十分盛り得なかったうらみがあることを訳者自身自覚しているが,しかも尚,脳損傷患者のリハビリテーション従事者には資する所少しとしないと信じる.    《目次》 脳損傷後の機能回復に関係ある神経解剖学的考察(J.C.Moore)  いとぐち  歴史的データ  中枢神経系発達上の系統発生的傾向と個体発生的傾向  介在ニューロンの発達(Development of the interneuron)  神経系の両側支配性(The bilateral nervous system)  中枢神経系の頸髄レベルの重要性  知覚系  リハビリテーション(ハビリテーション)の十大原則 成熟哺乳動物神経系損傷後に起る相互連絡可塑性の機序(Patrick D.Wall)  この問題に関し考えられる理由づけ  まとめと結語 ヒトにおける大脳半球切除術および霊長類における実験的小病巣作製後に見られる大脳機能の再構成(Paul Gless)  いとぐち  観察  実験的研究  運動皮質領野  知覚皮質領野  考按  最高知覚皮質(primary sensory cortex)損傷後に見られる知覚機能の回復  まとめ 脳損傷とそのリハビリテーションの動物モデル(Mark R.Rosenzweig)  いとぐち  脳損傷の結果ならびにリハビリテーションの効果に関する動物モデル  脳-行動相関関係のヒトと動物の明らかな相違を解明するこころみ  動物モデル:問題点と今後の展望 脳による運動支配:機能的再組織編成の可能性(Edward V.Evarts) 脳可塑性の神経薬理学的側面(Simon Brailowsky)  いとぐち  薬物の効果を修飾変化させる因子  CNS損傷後の回復に影響を与えるために使用される薬物の総括  結論 附記 シナプスにおける薬理学的作用発揮の可能と思われるレベル:理論的考察(S.Brailowsky)  シナプス前コンパートメント  経シナプスコンパートメント  シナプス後コンパートメント 治療手技の基礎としての脳の可塑性(P.Bach-y-Rita)  CNS可塑性に関する初期の諸研究  ヒトの脳の可塑性に関する研究  機能再組織作り(reorganization)に関する要因  神経系の基本構造(neural substrate)  意味のある治療  学習のプラトー(学習曲線の停滞水平状態)  リハビリテーションにおける神経薬理学  年齢と時期  動機づけ(やる気),環境,家族,ならびに心と脳の相互作用 編集者のむすびの言葉索引

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