内容説明
智恵は、勘定所で普請役を務める夫・信郎と、下谷稲荷裏でつましくも幸せに暮らしていた。信郎は若くして石澤郡の山花陣屋元締め手代まで登りつめたが、真の武家になるため、三年前に夫婦で江戸に出てきたのだ。そんなある日、三度目の離縁をし、十行半の女になった姉の多喜が江戸上がりしてきた。一方、その頃、信郎は旗本の勘定から直々に命を受け、上本条付にひとり出向いていたが…。己の「励み場」とは何か?家族とは何か?―直木賞作家が描き切った渾身の長篇小説。
著者等紹介
青山文平[アオヤマブンペイ]
1948年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。経済関係の出版社に勤務後、フリーライターを経て、2011年に『白樫の樹の下で』で第18回松本清張賞受賞。2015年『鬼はもとより』で第17回大藪春彦賞受賞。2016年『つまをめとらば』で第154回直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
-
ミスランディア本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タイ子
81
「名子」(なご)という言葉を初めて知る。元は武家でありながら百姓の小作よりも下に見られるようになった身分の事。早い話が最下級の農民のこと。主人公の笹森信郎は今は江戸で勘定所の普請役を務めている。妻・智恵は名子の家から豪農の養女になった女性。最初はそれほど魅力的に感じなかった物語がどんどん面白くなるのが青山さんの上手さだろうと思う。信郎がある村に視察に行きそこで知った隠されていた事実。そして、妻も初めて明かされる自分の出自。妻のある決意をするくだりは胸が痛くなる。時代で片付けられない人生の諸々を読んだ。2024/07/04
のぶ
73
この小説、前半部は名子という聞き馴染みのない身分が分からず、理解し辛かった。もし名子の意味を存じなければ、調べてから読む事をお勧めする。物語は主人公、信朗が百姓から身を起こし、武士を目指して妻の智恵の支えを得ながら、江戸に出て努力する話。当時の農民の生活や、武士という身分が良く描かれていて、後半は面白く読む事ができた。タイトルの「励み場」は最後の方でようやく分かったような気がする。全体を通して青山さんの人物描写が秀でていて面白かった。2018/10/16
buchipanda3
43
江戸中期の頃、その出自から武家になろうとした男・信郎と妻・智恵を描いた物語。時代ものとしての趣だけでなく、サスペンス風な仕掛けもあり読み応え十分な作品だった。著者の小説らしく、登場人物の内面へより踏み込むかのように丁寧に綴られた人物像に感じ入りながら読み進めた。本作で頻出する“名子”という言葉は初めて知ったが、そこから感じられる憂苦な雰囲気がずっと話の中を漂い続ける。特に智恵が夫の励み場を考慮してとった行動にハラハラ。結果として、夫婦共々自らの覚悟が良さげな方へ向かったことに安堵しながら読み終えた。2018/08/18
のびすけ
21
「名子」と「励み場」をキーワードに、信郎と智恵の夫婦が進むべき道を見つけるお話。興味深い内容ではあったが、淡々と読了。2025/04/20
まいど
10
本を忘れ計画外だが読んでしまう。「妻を娶らば」から青山文平は割合と読んでいる。 腰の重さは相変わらずだが今回はあまり聞いたことのない言葉ばかりで頭に染み込ませるのに時間がかかってしまった。 でも江戸時代の農に関する何と無くの疑念がだいぶ晴れた気がする。いくら時代小説が好きとは言っても研究者ではないから何と無くの疑問はそのままにしてしまう事が多々ある。それをこういう形で教わる事は嫌いじゃあない。いや、非常に助かると言って言いだろう。 青山文平様々である。 2018/10/12