内容説明
神田明神下に住む通いの摺師・安次郎。寡黙ながら実直で練達な職人の彼に、おまんまの喰いっぱぐれの心配がないと、ついた二つ名は「おまんまの安」。そんな中、安次郎を兄と慕う兄弟弟子の直助が、様々な問題を持ち込んでくる。複雑に絡み合い薄れてしまった親子の絆、思い違いから確執を生んでしまった兄弟など…安次郎は否応なしに関わっていくことに―。五つの摺りの技法を軸に、人々が抱え込む淀んだ心の闇を、澄み切った色へと染めていく。連作短篇時代小説、待望の文庫化。
著者等紹介
梶よう子[カジヨウコ]
東京都生まれ。フリーランスライターのかたわら小説執筆を開始し、2005年「い草の花」で九州さが大衆文学賞大賞を受賞。2008年「一朝の夢」で松本清張賞を受賞し、同作で単行本デビュー(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぶんこ
45
摺師が主人公の江戸物は初めてだけに面白かったです。絵師や彫師は名前が出てもてはやされるのに、摺師は縁の下の力持ち。割りに合わないと思う太一のような人。地道にコツコツと誇りを持って仕事に励む安次郎。職人としての腕が立ち、食べる事に困らない稼ぎを得られることから「おまんまの安」と呼ばれる。安次郎のような生き方が好きなので、読んでいてほのぼのしますし、少しおっちょこちょいの直助も好きだなぁ。2018/03/21
信兵衛
27
本作の続編となる「父子ゆえ」を、そうと知らず読んでしまって以来、気になっていた作品。十分楽しめました。2020/04/30
タツ フカガワ
27
冒頭「かけあわせ」を読んでいて突然こみ上げるものが……。摺師の技法にからめた短編5つの連作は、すべてが「かけあわせ」のような素晴らしい人情話でした。梶さんの作る物語には派手な演出があるわけでもなく、個性的な人物が活躍するわけでもない。が、じわじわとこみ上げる哀感と清々しい余韻があとを引きます。2018/05/17
Norico
27
浮世絵では絵師と彫り師が有名だけれど、バレンで摺る摺り師が主人公で面白かった。職人気質の安治郎に、お調子者の直助とすぐ雷落とす親分さんの掛け合いもテンポよく、あっという間に読んでしまいました。浮世絵のすりの手法も分かって、勉強にもなります。友恵さんとこれから何かあるのかな?花見はうまくいったのかしら?おたきさんと孫はどうなるの?などなど次作以降も楽しみですー2015/07/09
onasu
21
読み漏らしと言うより、当時(文庫2013年)は読みたい範囲になかったものが、今ではど真ん中、それも続編の文庫化の折に見つけられたとは、当時よくぞ読まなかった! てなところで、(浮世絵)版画の摺師安次郎は家族の縁には恵まれていないが、摺師としては指名もあるほどで、それを慕って入門してきた兄弟弟子もいるが、それが絵に描いた下っ引きのように揉め事を拾ってきては、安次郎が絡まった関係を摺の技法に擬えて解いていく。 摺の技法、長屋の人情に恋愛の香り、そして感情を内に秘めた安次郎の有り様、要素の揃った佳作でした。2021/09/08
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