内容説明
若い夫婦と五歳の一人息子が、地震と洪水が重なった大災害に襲われる。その時、一方の世界ではお父さんが亡くなりお母さんが生き残った。もう一方の世界ではお母さんが亡くなりお父さんが生き残った。息子のヒロ君はこの二つの世界を同時に生きていた。大災害で崩壊した家族を蘇らせるためにヒロ君は…。
著者等紹介
小林泰三[コバヤシヤスミ]
1962年京都府生まれ。大阪大学大学院修了。95年「玩具修理者」で第2回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、デビュー。98年「海を見る人」で第10回SFマガジン読者賞国内部門、2012年『天国と地獄』で第43回星雲賞日本長編部門、14年『アリス殺し』で啓文堂大賞文芸書部門、17年『ウルトラマンF』で第48回星雲賞日本長編部門をそれぞれ受賞。『アリス殺し』は「SUGOI JAPAN Award 2016」エンタメ小説部門3位にもなった(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しんたろー
165
小林泰三さん初読み扱い(アンソロジーの短編を読んだだけなので)。まず、パラレルワールドの切り口が今までにないセンスで目新しさを感じ、その構造を理解するのが楽しかった。また、第二部で登場のサイコ野郎が憎々しくて、恐怖感を煽られてゾクゾクした。6歳児・ヒロくんと父、母が健気に頑張る姿もハラハラしながら応援できるし、SFの仕掛けを巧みにサスペンスとして昇華している筆力も見事だった。災害で辛い想いをしている人たちへの愛が伝わってくる温かみある作品だし、改めて家族&夫婦の形を考えさせられ、深みあるエンタメだった👍2019/01/15
モルク
108
大雨と地震そしてダム決壊による洪水に巻き込まれた一家。父親が亡くなり母親とともに生きる世界と、母親が亡くなり父と生きる世界、夫婦はお互いが見えず話もできないが、6才の息子ヒロくんはこの2つの世界を繋ぐ。第二部ではヒロくんと同じ能力を持つ戸倉が登場し、2つの世界の微妙なタイムラグを使い悪事を働く。ヒロくんにそれを知られた戸倉は…結構グロくドキドキする。最後にヒロくんの選んだ世界、それは少し切なかった。2019/08/07
あも
98
災害に遭い、父だけが死んだ世界と母だけが死んだ世界。二つを繋ぎ互いの言葉を伝える5歳のヒロ君。というと、乙一の某短編を彷彿とさせるが、そこはヤスミン。さすが理系脳。2部ではパラレルワールドの特性を活かした展開が一家を襲う。ここ最近のヤスミンはいよいよ円熟期かと思える良作揃い。中でも本書の一般受け度はダントツかもしれない。ヤス民的には癖のなさがやや物足りなくもあるが…。乙一の様に設定を使いこなし、伊坂の様に軽快に敵に立ち向かい、マイジョーの様に物語に祈りを込める。ただただシンプルにこれに尽きる。面白かった!2018/07/27
おかだ
63
それなりに楽しんだ。序盤の吸引力が凄い。災害をきっかけに、二つの世界を股にかけることになったヒロくん。父が死に母が生きている世界と、母が死に父が生きている世界。前半はこの家族を襲う悲劇や数奇な運命に惹き込まれ、まさか小林泰三がこのまま号泣必至の切ないファンタジー路線かよと思ったけど違った。やっぱり小林泰三だったなって第二部からなんか安心(?)した。個性強めのキャラが出てきて思ってた方向と違う場所に引っ張ってかれる感じ。終盤は安定のヤスミン節。でもヒロくんの出した結論は切なくて、独特の余韻を味わった。2019/02/28
うめ
41
”恋愛小説家(※自称)”のヤスミンだけあって、愛の物語だった。もちろん論理的であるが故に笑えるパートが、どこか突き放した素っ気ない文章と客観的すぎる会話文と相まって得も言われぬ独特の世界を紡ぎ出す。このマリアージュがクセになる。本当ヤスミンは唯一無二のパクチー作家だな!!制限がある能力を知性を用いて最大限に生かし戦う2章でのスタンドバトルは、大まじめに作品内に遺された人への祈りを込めた照れ隠しの反動か、ファンへのサービスか。最後に”愛”と”救い”で優しく締めて、もう、こんなコトするから好きなのよ、もう。2018/10/26
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