内容説明
本書は、夏目漱石が用いた近代小説の技法としての“語り”の問題に着目し、漱石作品の中から『吾輩は猫である』から『明暗』までの主要な14作品を取り上げ論述したものである。著者は一貫して“語り”の問題、すなわち「物語が語られる立場」に焦点をあて、その物語がどのような“人称”と“視点”を採用して語られているかという点に着目し、論考を展開している。
目次
第1章 漱石初期作品の構造―一人称の“語り”の物語群(「太平は死なゝければ得られぬ」―『吾輩は猫である』論;「昨日生れて今日死ぬ奴もあるし」―漱石「琴のそら音」とワーズワース“Strange Fits of Passion Have Known”をめぐって ほか)
第2章 漱石中期作品の構造―三人称の“語り”の物語群(「此所では喜劇ばかり流行る」―『虞美人草』論;「こんな悲い話を、夢の中で母から聞た」―「夢十夜」論 ほか)
第3章 漱石後期作品の構造―多元的な“語り”の物語群(「世の中にたつた一人立つてゐる様な気がします」―『彼岸過迄』論;「僕は死んだ神より生きた人間の方が好きだ」―『行人』論 ほか)
第4章 漱石晩年の到達点―漱石の目指した“語り”の手法による物語群(「世の中に片付くなんてものは殆んどありやしない」―『道草』論;「今迄も夢、今も夢、是から先も夢」―『明暗』論 ほか)