内容説明
あらゆる「依存」から脱却して「自立」せよと人々を追い立てる社会。アクティブになることを強迫的に求められる主体。現代社会の統治のありようを教育、福祉、労働、地域、メディアの諸領域からオープンに問い、自由を希求する論文集。
目次
第1部 なぜ自立を問うのか(自立・自律した個人という幻想と「共生」の根拠;依存の復権論・序;反自立という相互依存プロジェクト)
第2部 自立社会の新たな統治性(福祉依存批判による生活保護バッシングと自立支援の展開;フレキシブル化する労働と自律的な「高度人材」という罠;自己マネージメント(忖度)時代のメディアコントロール
教育機会確保法と「学ぶ主体化」される子どもたち
高校家庭科における自立的生活主体と共生社会
「力をつけて、のりこえる」論の止揚は可能か
地域社会と公教育の関係性をどうとらえるか)
第3部 自由な生の可能性(学校のアジールをめぐって;フリースクールという子どもの居場所;映画「みんなの学校」はどう見られたか―インクルーシブ教育と特別支援教育の分水嶺;保育園からの能力主義と自己責任論への抵抗;教育支配からの逃走、戦略はゾミアが知っていた)
著者等紹介
広瀬義徳[ヒロセヨシノリ]
関西大学教授
桜井啓太[サクライケイタ]
立命館大学准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆう。
24
私たちは、あたりまえに自立することを是としている。しかし、人間は他の誰かがいないと生きていくこともできない。依存労働=ケア労働が注目されているが、依存という概念をもっと積極的に読み込み、人々にとって負になることと人びとにとってかけがえのない依存とを整理して考える必要があるだとう。そういう意味では、本著の挑戦はとてもおもしろかった。2020/08/05
ヒナコ
6
現代社会は経済的自立を「善き主体」の前提としているため、依存状態に陥った主体を常に修正・矯正するように機能している。福祉制度もこうしたトレンドの中にあり、例えば生活保護でも「(経済的)自立支援」が目的化され(第4章)、学校でも金融商品を通じて財テクをするノウハウが家庭科で教育され(第8章)、フリースクールでさえ子どもを規律訓練する「学びの場」へ再統合されている(第7章)。→2022/04/23
ひつまぶし
3
現代社会を「自立へ追い立てられる社会」として批判しながら、オルタナティブな在り方を探る。理論的な整理をする第1部、自立による統治の圧力を論じる第2部、あるべき社会のヒントを模索する第3部といった構成。章によっては面白い問題提起も見られるが、理論化が甘いので本全体のまとまりはもう一つ。自立を相対化する視点として依存を切り口にするのは良いが、それ自体に価値を置くと議論が単純化してしまいそう。自立の虚構性を実証するとか、反対に自立を可能にしている潜在的な依存を可視化するとか、具体的な事例研究が今後は必要だろう。2021/08/23
めぐり逢い
2
社会福祉、教育などの分野から「自立」を問う論文集。主体的に生きること、あるいは自立的に生きることはすでに自明のことであるかのように社会的な通念とみなされています。しかし、「自立」という考え方は近代以降に作り出されたものであり、人間は本来共生して生きていく存在であることが述べられます。「自立」して生きることが決して当たり前ではないことを本書は教えてくれます。教育分野の内容が多いですが、知らなかったことも多く、とても勉強になりました。同じ編著者による『揺らぐ主体/問われる社会』(2013年)も読んでみます。2020/11/03