内容説明
中東を革命の炎に包む「アラブの春」の発端となった一青年の焼身自殺。その瞬間を、文学は、思想は、いかに表現し、それに応答できるか。生きるなかで打ちのめされ、辱められ、否定され、ついに火花となって世界を燃え上がらせた人間の物語。
著者等紹介
ベン=ジェッルーン,ターハル[ベンジェッルーン,ターハル][Ben Jelloun,Tahar]
現代フランス語マグレブ文学を代表する作家。1944年モロッコのフェズに生まれ、1971年フランスに渡り、1987年『聖なる夜』(邦訳は紀伊國屋書店)でゴンクール賞受賞
岡真理[オカマリ]
1960年生まれ。専門は現代アラブ文学、パレスチナ問題、第三世界フェミニズム思想、東京外国語大学アラビア語科卒、同大学院修士課程修了。現在、京都大学教員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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nobi
51
原著のPar le feuというタイトルを不思議に感じながら読み始めた。ムハンマドが警官から受ける扱いはいたたまれない。一旦反政府的と見られてしまうと因縁をつけられ殴られ日々の生活費を稼ぐ荷車はひっくり返される。彼も賄賂さえ差し出せばその扱いが止むという社会。人間性も家族を養う正当性も認められず追い詰められていく彼の気持ちが迫ってくる。カイロやモロッコで暮らし似たような光景を目の当たりにした岡真里氏の訳者解説は、当時の中東がルポ映像のように眼前に広がる。“コップの水にほんの一滴”という鮮かな比喩にも感服。2023/11/12
燃えつきた棒
31
アラブ関連の文学を読むのは初めてだ。 どうしても、僕の目は、子供の頃から触れて来たアメリカや西欧の価値観に汚染されているだろう。 完全に中立な視点などどこにもないにせよ、これからの読書によって幾らかでも修正していけたらと思う。 読後、複雑な思いが残った。 「アラブの春」の発端となったチュニジアの一青年ムハンマドの焼身自殺を描いた物語。 たしかに、彼の焼身自殺がきっかけとなって、チュニジア市民の抗議運動が巻き起こり、独裁政権は倒れた(ジャスミン革命)。→2023/09/02
風に吹かれて
19
チュニジアの一人の若者が、2010年12月17日午前11時30分に県庁舎前でガソリンをかぶって火をつけた。それが中東革命につながった。2011年1月4日、若者は息を引きとる。 本書は、そういう事実を踏まえつつ、小説家の想像力によってムハンマンドという何処にでもいるに違いない若者が自身に火を放つに至る筋道を描く。ほんのわずかの金で仕入れた野菜を屋台に積んで行商している若者が理不尽な要求をする警察官から何度も何度も暴力を受ける。心と体にどれほどの激痛が走ったことだろう。 →2024/02/09
アマヤドリ
16
短かったのですぐに読み終えた。 アラブの春のきっかけになった、焼身自殺した青年をモデルにしているがあくまでも創作という形でそこに至った数日間のことが描かれている。 本文は簡潔ながらもよく描写されていた。 実在の人、事件をこのようにフィクションとすることについて色々考えつつ読んだところ、訳者の岡真理さんの解説に納得させられたという感じ。 力のある解説は、ひとつの論文のようであった。2023/12/14
lovemys
15
とても苦しい読書でした。訳者解説が心に響いた。今から10年程前のお話だけど、現在のアラブはどうなのだろうか。どうして自爆テロに加担するのかと疑問だったけど、そちらのほうがマシと思えてしまう世界があることが分かった気がして辛かった。2023/07/17
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