内容説明
世界的大文豪トルストイの短編を集めた民話シリーズ。文豪だからと敬遠することはありません。100ページ前後で子どもから大人まで楽しめます。
著者等紹介
北御門二郎[キタミカドジロウ]
1913年、熊本県生まれ。東京帝国大学(現東京大学)英文科中退。熊本県水上村湯山にこもり、農業を営むかたわら、トルストイの研究・翻訳にその人生を捧げた。1979年、「トルストイ3部作『アンナ・カレーニナ』『戦争と平和』『復活』」(東海大学出版会)の翻訳により、第16回日本翻訳文化賞を受賞。2004年、死去(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
112
1881年トルストイ53歳の時に書いた民話。「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」執筆後、どう生きたらいいかという疑問が起きはじめたと略年譜にある。物語は、セミヨンが助けて自宅に連れて帰ったミハイルが実は罪をおかした天使で、神様に人間についての三つの問いがわかれば天に戻ってくるように言われる話し。人の中には何があるのか?人に与えられていないものは何か?人は何によって生きるのか?その答えは、トルストイが自らに誓ったこと。神の愛の元で生きるということ。1910年82歳で家を出て死んだ時、彼は何を思ったのだろう。2023/01/13
肉尊
73
行き倒れの人(本当は大天使)を見過ごせない人間の良心の声。「おいセミヨン、いけないぞ!」わざわざサマリア人の例えを持ってこなくても「おい山田、いけないぞ!」で伝わる。旧約聖書の世界を民話で再構成することで、改めて神との契約を心に刻むことができる。天使は天使で、神から与えられし試練の答えに気づき思わずほほ笑みを浮かべる。日本の民話に仕立て直してみても色褪せない不朽の名作である。2022/12/28
アルピニア
44
読友さんのレビューで知った本。トルストイの書いた民話を北御門二郎氏が訳した本。キリスト教色の濃い物語だが、普遍的な真理を含んでいて、北御門さんのあとがきにあるように「キリスト教の一宗一派に捉われぬすぐれた解説書であり、ブッダの慈悲、孔子の仁、老子の道にも通じるもの」だと思う。ヒトの心にある温かさ、愚かさ、そして人知を超えたものに生かされているということを感じる物語。2018/06/27
翔亀
43
トルストイ後期の"民話"の一編。徴兵拒否により在野でトルストイの翻訳を進めた故北御門氏の訳というのがポイントで、「現場の良心的教師により勇気をもって学校教育に取り入れら」ることを願って、ルビの多い児童向けのテキストとして出版されているが、完訳版。岩波文庫版(中村白葉訳)よりは読みやすい。ただ、「戦争と平和」も「アナ・カレーニナ」も学生時代に途中脱落した者として他の作品から入ろうと日和った私もいけないのだが、天使が登場するおとぎ話とあって、「ひとびとが合一して生きること」(恐らくソボールノスチ=全一性。↓2014/10/19
aika
41
靴屋を営む貧しいセミョン夫妻が、凍える寒さの中で倒れていた男を助けたことで起こる奇跡を、易しく、そして優しく、トルストイと北御門さんは届けてくれました。お金も無いのにお酒を飲んできて、さらに身元も分からない男性を家に連れてきたことに怒る妻とたじたじな夫、という夫婦の何気ない場面にもリアリティがあって、大文豪のトルストイも、家庭の中で置かれていた立場は一人のしがない夫だったことが想像できます。雑多な日々で忘れがちだけれど、人が善く生きるために必要な愛情の温かさが、本の向う側からそっと包み込んでくれました。2020/06/07