出版社内容情報
本書は、歴史、社会理論、哲学、法律学、文学、経済学、心理学、社会政治学といった分野の語彙を400近く収録しました。たんにそのことばが何を言い表しているのかというだけでなく、それがどのような背景をもっているか、それについてどういった議論がなされているのかが示されています。
はじめに
寄稿者一覧
利用の手引き
見出し語和英索引
セクシュアリティ基本用語事典本編
参考文献一覧
訳者あとがき
はじめに
一般からアカデミックな場面まで、そこで用いられる(専門)用語はかなりの数にのぼりますが、ことセクシュアリティに関して言えば、実にさまざまな概念や隠語、そして独特な言い回しが溢れています。たとえば、アカデミックな議論に取り組もうとしている学生の中には、文献によって筆者が婚姻のことを「異性愛規範」や「ヘテロセクシズム」と捉えたり、「異性愛家父長制度」と呼んだりすることに戸惑ってしまう人もいるでしょう。セックスという言葉でさえ、「台本通りだ」「パフォーマンスに過ぎない」「商品化されている」というような捉え方がされることがあります。雑誌や自伝、パンフレットといったものに目を通すと、「ブッチ・ボトム」「レズビアン・ボーイ」という言葉があり、この2つの言葉は一体何が違うのかといったことに頭を悩ませます。「ハネムーン」とか「オーガズム」といったよく用いられるものでさえ長い分析と議論の歴史がその背景にあります。また、たとえば「扱き合い」とか「レインボー・キス」といった言葉を、その正確な意味は知らないにせよ、耳にしたことがある人もいると思います。
性の文化とその分析というものがいわゆる西洋(この言葉自体が指す内容にもさまざまな意見はありますが)において発達したという背景もあり、本書のような基本概念の解説書を出版するのも時宜に適っていると思われます。「セクシュアリティ研究」というものが世に出てきて間もないものではありますが、セクシュアリティを取り扱った出版物はすでに広く出回っています。そこでは民俗学、テクスト研究、オーラル・ヒストリー(口述記録)、アーカイブ史、抽象理論といったアプローチがあり、それゆえ、さまざまな分野の主題として取り上げられています。またそれを反映し、各分野の境界線も見えにくくなっています。本書はこういったポスト専門分野を背景とし、歴史、社会理論、哲学、法律学、文学、経済学、心理学、社会政治学といった分野の語彙を収録しました。また、ここではジェンダーの不平等は是正しなければならないこと、欲望と実際の性行動は文化の産物であること、性のアイデンティティというものは固定したものではないこと、集団闘争と個人の自由というものは相反するものではないこと、といったいわゆるポストフーコー、ポストクィア(ポストフェミニズムではない)理論で議論されている事柄に留意しています。
同時に、本書は伝統的な性の政治学に則ったものだとも言えるでしょう。本書では性の複数性を広く訴える内容になっています。つまり、性の自由は勝ち取られなければならない、性的な沈黙は害にしかならない、セックスという分野ではわれわれの権利が十分に確立されていないということを訴えています。一方で、性の自由化というものが何の問題もなく、「良い」方向に向かうとも捉えていません。この40年、性の政治学はその内部に独自の問題を生み出してきました。それぞれの分野内での学閥ができ、市場によって性のスタイルが商品化され政治色が失われてしまい、生物学や遺伝学といった安全な隠れ蓑に逃げ込むことでこれまで得られてきたものが振り出しに戻ってしまうということもありました。
セクシュアリティというのは「概念の戦い」です。本書では400に及ぶ基本用語を提示していますが、たんにそれが何を言い表しているのかというばかりではなく、それがどういう背景を持っているのか、それについてどういった議論がなされているのか、ということが示されています。本書の執筆に携わった50名の方々はその議論の中心にいらっしゃる方々ですが、担当箇所で持論ばかりを振り回すという書き方はなさっていません。また逆にただ面白みのない事実の羅列に終わっているわけでもありません。それぞれのトピックについてバランスよくどのようなことが議論になっているのかをカバーし、独自の考えも打ち出しています。読者のみなさんにとって本書が知的好奇心をそそり、また、新しい発見の場となることを望んでおります。執筆者の皆様にはこの場を借りて心よりお礼を申し上げたいと存じます。
本書の活用法
本書ではキー・ワードを約400語に絞り込んでいますが、この分野にはそれ以上の言葉があることは言うまでもありません。読者の方々には本書をこの分野を扱ったほかの用語集と一緒に活用されることをお勧めいたします。「覇権(hegemony)」「余剰抑圧(surplus repression)」「引用性(citationality)」などはセクシュアリティの分野でも頻繁に用いられる言葉ですが、すでに社会学・マルクス主義・文学理論などの用語集でも取り上げられていますので、本書には掲載しておりません。また、議論よりも定義をきちんとしなければならないような言葉(陰門[vulva]や包皮[prepuce]など)は辞書にその定義を譲ることとしました。性に関する隠語にもさまざまなものがあることから、性的な行為に関する俗語すべてをカバーすることはできませんでした。gang bang(輪姦)やspit roast(串刺し)などの言葉についてはインターネット上のウェブサイト「The Deviants Dictionary」(http://public.diversity.org.uk/deviant/index.html)やプランザローネの「Glossary of Sexual Slang」(http://www.sexuality.org/l/sex/slang.html)または「Dictionary of sexology」(http://www.sexuality.org/l/sex/sexdict.html)を参照なさってください。さらに、学問的・政治的観点からそれほど議論の俎上にのぼらないような言葉も本書では取り上げておりません(それゆえ、読者は奇異な印象を受けるかもしれませんが、セクシュアリティの用語事典にもかかわらずこの中には「ファック」という言葉は含まれておりません)。
各項目の提示方法
それぞれの項目はアルファベット順に並べられており、その項目に関連する主要な議論を掲載するという方法をとっています。また、個々の用語がそのほかの用語と関係が深い場合、そういった項目を太字にし、読者が読み進めるなかで相互参照できるようにしました。たとえば「エイズ」の項目の中にはアクティビズム、コンドーム、デンタル・ダム、HIV、そしてセーフ(セーファー)・セックスなどの言葉がこのように太字で示されるといった具合です。こうすることでひとつの項目だけを読むよりも焦点となっている議論についてより深く知ることができると思われます。また、読者にあまりなじみがないと思われる言葉が本文中で用いられている場合にも太字で示され、その項目を参照することで定義がわかるようにもなっています。ただし、とくに関連があると思われる場合を除き、頻繁に用いられるレズビアン、ゲイ、異性愛、両性愛、トランスセクシュアル、フェミニズムといった言葉は太字といたしませんでした。
各項目で取り上げられている参考文献については、もっとも重要で読者が関心を持つと思われるものに限りましたが、それでも文献の数は1000ほどあります。取り上げた項目についてさまざまな議論がある場合には、「詳しくは~を参照のこと」として文献を取り上げ、読者がその分野の議論についてさらに詳しく調べるさいの便宜を図りました。また、項目名のみを取り上げ、その内容にまで触れていないものもありますが、その場合にもほかの項目を参照していただけるようにしました。
(後略)
内容説明
400に及ぶ基本用語を提示し、たんにそれが何を言い表しているのかというばかりでなく、それがどういう背景を持っているのか、それについてどういった議論がなされているのかを示した事典。それぞれの項目はアルファベット順に並べられており、その項目に関連する重要な議論が掲載されている。
著者等紹介
イーディー,ジョー[イーディー,ジョー][Eadie,Jo]
セクシュアリティについて広く執筆活動をおこなっている。イギリスのスタッフォードシャー大学では社会・文化理論の講師を務め、またバイセクシュアル・コミュニティではアクティヴィストとしてキャンペーン活動を担当している
金城克哉[キンジョウカツヤ]
専門は言語学。琉球大学法文学部助教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
-
- 電子書籍
- かごいっぱいに詰め込んで